データベースを利用したPOPsの作物汚染度推定技術の開発.pdfVIP

（３） データベースを利用したPOPs の作物汚染度推定技術の開発 ア 研究目的 POPs 物質の土壌中での消長、作物体への吸収・移行性、統計データに基づく過去の使用 状況、土壌特性、気象条件等の要因を用いたPOPs 物質の作物残留リスクの推定手法を開発 し、モンテカルロ・シミュレーションにより全国ベースでのPOPs 物質の作物残留リスクを 推定する。これにより、現在及び将来的にPOPs 物質が土壌中に多く残留すると考えられる 地域や、作物残留リスクが高くなるケースの評価に資することを目的とした。 イ 研究方法 (ア) POPs 物質の全国的な土壌残留濃度分布の推定 ａ 土壌情報データベースの活用 全国ベースでの POPs 物質の作物残留リスク推定手法の確立に資するため、農林水産省が 実施した地力保全基本調査及び土壌環境基礎調査に基づく土壌データベースを活用し、 POPs 物質の土壌中での消長に大きく影響を及ぼす全炭素含量及び仮比重の分布特性を土 壌群別及び都道府県別に把握する。 ｂ FOMC モデルによるPOPs の土壌中濃度分布の推定 これまでの知見により、POPs の土壌中濃度は時間の経過と共に減衰が緩やかになる二相 性を示す。本研究では、Gustafson ら1）が提案した二相性を表現するモデルの一つである First-order multi-compartment model (FOMC)により、POPs の土壌残留濃度を推定する手 法を開発する。また、全国 14 地点の農耕地土壌におけるPOPs 濃度の実測値（14 地点の幾 何平均値）を用い、本手法による推定の妥当性を検証する。さらに、確立した推定手法に より土壌群別の残留濃度分布を推定する。 (イ) ドリン類等の作物残留濃度分布の推定 ａ 土壌からキュウリ茎葉部への移行率を用いた作物残留濃度の推定 関連課題 「土壌からのPOPs 抽出法改良による作物吸収量推定技術の開発」で得られた成 果である、土壌からキュウリ茎葉部へのディルドリン移行率と全炭素含量との関係により、 キュウリ茎葉部ディルドリン濃度を推定する手法を開発する。また、POPs 物質の過去の使 用実態を考慮し、確立した推定手法により全国ベースでのキュウリ茎葉部におけるディル ドリン濃度を推定する。 ｂ 作物の生理的要因を考慮したキュウリ果実中濃度分布の推定 関連課題「POPs の吸収及び地上部への移行の生理機構の解明及び環境要因の解析」の成 果を活用し、作物の生理的要因（品種、栽培温度、着果部位等）を考慮した特定の栽培条 件におけるキュウリ一株から収穫される果実中濃度分布の推定手法を開発する。また、確 立した推定手法を用い、異なる作型（半促成、抑制栽培）における果実中ディルドリン濃 度分布を推定する。 ｃ 全国ベースでのキュウリ果実中濃度の推定 前述の推定手法を用い、東日本（18 都道県）と西日本（29 府県）とに分けて、土壌の全 炭素及び仮比重の分布特性を把握し、土壌中及びキュウリ果実中ディルドリン濃度の経年 変化を推定する。 (ウ) リスク低減化技術による作物残留リスク低減効果の評価 前述の推定手法に加え、関連課題「土壌からのPOPs 抽出法改良による作物吸収量推定技 術の開発」の成果である、活性炭投入量とキュウリ果実中ディルドリン濃度の低減率との 関係により、活性炭投入による果実中ディルドリン濃度の低減効果を推定する。また、ズ ッキーニ作付け回数と土壌中ディルドリン濃度の低減率との関係を用い、ファイトレメデ ィエーションによる作物残留濃度の低減効果を推定する。 ウ 研究結果 (ア) POPs 物質の土壌残留濃度の推定手法 ａ 全炭素含量及び仮比重の分布特性 地力保全基本調査及び土壌環境基礎調査に基づく土壌データベースにより、全炭素含 - 1 - 量及び仮比重の分布特性を土壌群別に把握した（図 12103-1）。その結果、仮比重は、対 数正規または正規分布、全炭素は対数正規分布で近似できることが示された。また、都道 府県別についても同様に分布特性を把握した。 (a) 黒ボク土 褐色森林土 褐色低地土 黄色土 対数正規分布