倫理ヘレニズム時代の思想 HKオンライン.pdfVIP

? 21 ? ▼ 高校講座?学習メモ ヘレニズム時代の思想 ～ボーダレスの哲学～ 第 2 章　人間としての自覚 倫　理 第 10 回 ヘレニズムとは何か マケドニア王国は、ギリシャ北方の農業国であったが、国内を統一し軍事力を固めた王国は ギリシャの諸ポリスと抗争、次々とその支配下に置いていった。やがて王位に就いたアレクサ ンドロスは、ギリシャ軍を率いて東方遠征を行い、ペルシア帝国を滅ぼし、ギリシャからペル シア、エジプト、北インドにまで至る大帝国を築いたが、間もなく亡くなり、帝国は分裂した。 この時代は、人的にも文化的にも、ギリシャと、ペルシアをはじめとするオリエントとの急 激な交流が進んだ。ポリスという枠組みは意味を成さなくなり、コスモポリタニズムという、 ポリスを超えた考え方や生き方の原理が求められた。 学習メモ 今回学ぶこと ポリス社会は衰退する一方で、アレクサンドロスの帝国が 成立し、やがて分裂する。このヘレニズム時代の混 こん 沌 とん とした 状況が、ポリスの枠組みを超えた考え方や生き方を生みだし ていく。代表的な学派であるストア派とエピクロス派の思想 から、現代にも通じるボーダレスな考え方、生き方を考える。 講師 和田倫明 ヘレニズム／世界市民主義（コスモポリタニズム）／ エピクロス派／アタラクシア／ストア派／アパテイア 今回のキーワード！ ? 22 ? ▼ 高校講座?学習メモ 倫　理  ヘレニズム時代の思想 隠れて生きるという生き方 エピクロスを創始者とするエピクロス派は、「隠れて生きる」ことをモットーとした。社会 の混乱を避け、自給自足の共同生活を送りながら、身体の健康と精神の平安（アタラクシア） を追求しようとした。 エピクロス派の思想を快楽主義と呼ぶことがあるが、彼らが求める快楽というのは、身体が どうしても必要とする「飢えないこと、渇かないこと、寒くないこと」が満たされ、アタラク シアが追求できるということに過ぎない。つまり極めて質素なものである。 エピクロス派の共同体は、各地につくられて、ローマ帝国時代にも受け継がれていった。 自然にしたがって生きるという生き方 ゼノンを創始者とするストア派は、アテネの広場にある柱廊（ストア）で彼が講義を行った ことにちなんでいる。高徳な人物だったので、マケドニアの国王からも尊敬されていた。英語 のストイック（禁欲的な）やストイシズム（禁欲主義）はここに由来している。 ストア派のモットーは「自然に従って生きる」ことである。ローマ時代のストア派哲学者、 エピクテトスはこのことを、物事の本質＝自然をよく理解しておけば、どのような状況に置か れでも心乱されることなく、無情念（アパテイア）の境地に至ることができると主張した。 ストア派の創始者であるゼノンに、クレアンテスという弟子がいた。彼 はもともと拳闘家（ボクサー）で、しかも非常に貧しかった。夜働いて、 昼学び、ゼノンに良く仕えたが、いわゆる頭の良いタイプではなかっ た。仲間からも「ロバ」とあだ名され、からかわれたが、ゼノンの荷物 を運べるのは自分だけだと言って意に介さなかった。ゼノンはクレアンテスのことを「固めの蝋板」にたと えた。書き記すのには骨が折れるが、いったん書きつけられるといつまでも消えずに残る。ゼノンの学校 を引き継いだのはクレアンテスだった。思想家の弟子には、明敏さには劣るが良く師の教えを守る者のエ ピソードが、しばしば登場する。孔子の弟子の子 し 路 ろ や、ブッダの弟子の周 しゅ 利 り 槃 はん 特 どく などもそうである。 Wada ……コラム 哲学者　師と弟子