生体异物と栄养-J-Stage.PDF

生体異物と栄養 吉 田 昭,＊加藤 範 久,＊＊堀尾 文彦 ＊ われわれの 日常生活 では食品添加物,医 薬品は もとよ り,環境化学物質 も切 り離せない存在である.こ のよ うな生体異物はその毒性が現われ ないよ うな低濃度で も,生体の代謝応答の結果,ビ タミン欠乏など栄養上 の問題の起 こることが珍 しくない.ま た,動 脈硬化 と関係の深い血清 コレステ ロールの上昇や老化 と関係 の ある生体脂質過酸化反応の促進 も種 々の生体異物の摂取で起 こって くる.“高齢化社会”とい うことが大 き く クローズア ップ されている今 日,生体異物の影響 については このよ うな面か らも注 目してお くべ きであろ う. ることにな り,実に多種多様な有機化含物 とい う 1.生体異物 と栄養学 との関わ りあい ことになる.このような生体異物を摂取すると, 工業化社会の食生活においては,人 間がこれま 生体は防御反応 としてこれ らの物質を代謝 して体 で食物 としてほ とんど摂取す ることのなかった種 外 に排泄 しようとし,この代謝活性に栄養条件が 種 の化学物質を,環境化学物質や食品添加物 とし 影響す る.こ こで,上述のよ うに生体異物は数多 て摂取す る機会が多 くなってきてい る.また,種 くあ り,化学構造,生 理作用 もさまざまであるか 種 の合成医薬 を服用することも多い.こ れ らの ら,これ らの物質 と生体 との個別的な対応 となる 物質は本来,生 体 と無縁であるとい う意味か ら と,各論的な記述が際限な くつづき,栄養 との関 Masonはxenobiotics(生体異物,非 生体物質) 連 もまた各論の集計になるが,生体異物は多様 な と名付けた.xeno-(ゼノ)とは異質 とか,奇異 と 化学物であ りなが らも後述のよ うに基本的に共通 かを表わす接頭語であ り,xenobioticsは生体に した性格 を有す ることで,栄養学 との関わ りあい とって異質な物質 とい うことで,生体異物,あ る の意義が一層大 きい と思われ る. い は非生体物質 と訳すのが適 当であろ う.このよ 生体異物 と栄養 との関係については,これまで うな意味では,天然 に存在 しなかった合成化学物 主 として生体異物の代謝系に及ぼす栄養素の欠乏 質はすべて生体異物 といってよいわけであるが, の影響 について薬物の代謝を中心に して調べ られ あ とで述べ るよ うに,高分子物質,無機物,水 溶 てきた.し か し,その逆に生体異物の摂取が栄養 性 の化合物は生体での代謝様式において脂溶性 の 素の必要量に対 しても影響す ることが,最近少 し 低分子有機化合物 と異なるので,ここではMason ずつ明 らかにされつつある.また,直接栄養素の のい う低分子の脂溶性 の合成有機化合物を指 して 必要量 との関係ではないが,コ レステ ロールの代 生体異物 とい う言葉 を用いることにす る. 謝,生体過酸化反応,内 分泌系など,栄養学 と密 このような分類 に属す る化合物の身近な例を考 接 に関連 した現象が,生 体異物の摂取で大 きく えると,環境化学物質 としてはPCBやDDT, 影響 されることもわかってきた.こ のよ うなこと ベ ンズ ピレンな どがあ り,食 品添加物 としては抗 は,これまでの栄養学ではほ とん ど扱われなかっ 酸化剤 のBHAやBHT,人 工着色料などがこれ た問題であるが,栄 養学が、食“品成分 と生体 との に該 当す