熱帯低密度観測流域での実時間洪水推定に関する研究.pdfVIP

京都大学防災研究所年報 第 52 号 B 平成 21 年 6 月 Annuals of Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ., No. 52 B, 2009 熱帯低密度観測流域での実時間洪水推定に関する研究 * ** ** 中西健一郎 ・田中賢治・小森大輔 ・沖大幹 ・小尻利治 *京都大学大学院工学研究科 **東京大学生産技術研究所 要 旨 本稿では気象・水文観測網の密度が十分でない，いわゆる低密度観測流域における洪水対策として， 2 2 およそ500km ～1000km 規模の流域を対象とし，レーダーによる降水の詳細な空間分布観測値を用いて， 標高と重心からの距離の2変数によって効果的な観測点を特定できる指標を算定し実流域で検証した． 加えて衛星による全球降水マップの有効性について議論した．全球降水マップは過小評価傾向や見逃 しがあるが，一定の地上観測があれば洪水対策に対して有効であると判明した． キーワード ：低密度観測流域，洪水対策，雨量計設置基準，流域地形，全球降水プロダクト 1. はじめに （Automated Meteoro- logical Data Acquisition System）による高 密度な雨量計ネットワーク（約 17km 四方の正方形領域をカ 本稿では，地上雨量計による観測網が充分に展開されてい バー）が展開されている．しかしこれほどの密度で降水観測 ない，いわゆる低密度観測流域における洪水対策として，低 が行われている地域は世界でも数少なく，中には全く雨量計 密度観測流域に新規に雨量計を設置する際の設置基準の策定 の存在しない未観測流域も存在する．雨量計を設置できない を目的とする．近年世界各地で集中豪雨に起因する水災害の 原因としては，例えば設置コストと維持コストが挙げられ， 発生が頻繁に報告されている。こういった現象と気候変動と 特に発展途上国においては AMeDAS のように高密度に観測 の明確な因果関係は分かっていないが，IPCC 第4 次評価報告 を展開していくことは困難であると考えられる． 書（文部科学省ほか，2007）の中で述べられている通り，今 こういった低密度観測問題を解決するための情報の一つと 後世界各地で水災害リスクが増加する可能性がある．そのた して，衛星リモートセンシング技術を用いた降水量プロダク め，洪水対策への取り組みは現在喫緊の課題であると考えら トがある．例えば日本で開発された衛星降水マップGSMaP れる． （Global Satellite Mapping of Precipitation）（Kubota et al., 2007） 洪水対策への取り組みの一つとして，分布型水文モデルを に含まれる GSMaP_MVK プロダクトはマイクロ波放射計及 用いた手法が近年提案されており（例えば関井ほか, 2007 ； び静止気象衛星による赤外放射計データを複合利用し全球 立川ほか，2007），特に降雨発生から洪水予警報発令までのリ