On the Regional Gap of the Japanese Local Telecommunications.docVIP

地域電気通信サービスの費用格差 浅井　澄子（大妻女子大学社会情報学部助教授） 依田　高典（京都大学大学院経済学研究科助教授） 要　約 　我が国の電気通信市場では、NTT単独によるユニバーサル?サービスの提供から、ユニバーサル?サービス?ファンドを介した外部補助制度に移行することとなった。本論文は、この外部補助制度の基礎となる地域別費用を計量経済学の手法を用いて計測したものである。ここでは、生産量にゼロを挿入することなく、単独採算費用と増分費用を計測する方法を提示した。計測の結果、大都市を含む地域における電話の平均費用は、他の地域の費用より低いこと、地域間格差は電話サービスよりも専用サービスの方が大きいことが示された。最近の高速?広帯域ネットワークの多くは、交換機を使用しない点では、専用サービスと類似の形態であり、今回の結果はネットワークの高度化を進めるに当たっては、費用格差の問題に留意する必要性があることを示唆している。 On the Regional Gap of the Japanese Local Telecommunications SUMIKO ASAI, Otsuma Women’s University TAKANORI IDA, Kyoto University The universal service fund as the external subsidy system will be introduced to maintain universal services in Japanese telecommunications market. The purpose of this paper is to estimate the incremental cost and the stand-alone cost without inserting zero into the translog cost function. From the estimation of the cost function, the following conclusions are presented. Firstly, the average costs of larger regional sectors are lower than those of the smaller regional sectors. Secondly, the cost gap of the leased circuit service is larger than that of the telephone service between eleven NTT’s regional sectors. 1　はじめに 　我が国の電気通信市場では競争導入から15年以上が経過し、東日本電信電話株式会社と西日本電信電話株式会社（以下、「東西NTT」という）による独占的傾向が強い地域通信市場にも新規参入企業が出現するようになった１）。これまでは地域通信市場における競争の進展状況に鑑み、東西NTTがユニバーサル?サービスの提供義務を負ってきたが２）、競争条件の同等性を確保する目的で、競争中立的な外部補助制度であるユニバーサル?サービス?ファンドが導入されることとなった３）。審議の過程で、ファンドの導入に対しては大方の合意が得られたが、問題となったのは補助額を左右する費用の算定についてである。 これまでの規制システムにおける費用の算定には、従来から会計上の費用を配賦する方式が広く採用されてきた。しかし、この方式は、規制対象企業の効率化促進に寄与しないこと、費用配賦の恣意性や決定過程の不透明性、規制コストが大きいこと等の問題点が指摘されてきた。このため、今回のファンドの補助額の算定には、接続料金の算定に用いられたエンジニアリング?コスト?モデルの方式が採用されることとなった４）。エンジニアリング?コスト?モデルによる方式は、既存企業の費用に極力依存しない方式であるため、透明性や効率化の問題を解消する。しかし、技術が短期間で進歩し、その結果、費用が大幅に低下した際には、既存設備の費用を回収できない可能性があること、結果がモデルの前提に大きく左右される等の問題点も指摘されている。このように会計費用の配賦による方式やエンジニアリング?コスト?モデルのそれぞれにも問題点が指摘される中では、複数の方法で試算を行うことが必要と思われる。このような問題意識から、本論文では、観察された領域のデータで単独採算費用と増分費用を計測する方法を我が国の電気通信分野に応用する。 　今回設定された外部補助制度における補助対象は、電話サービスである５