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劉文英宝巻考 附SOAS図書館所蔵宝巻目録 砂山稔 序　言 　吉岡義豊氏はかって「管巻という文学作品が中国民衆の意識や宗教思想をみるうえで，きわ めて重要な資料であることは，ことあたらしく説明するまでもない」且）と言われた。 　筆者は沢田瑞穂氏の『校注破邪詳弁』を一読して以来，宝巻に関心を抱き続けてきたが，研 究対象を唐以前に絞っていたたあ未だ実際に研究する機会を持たなかった。 　ところが，1994年4月2日より，文部省在外研究員として渡欧，巴里を経て，倫敦大学 SOASで4月22日より研究に従事した折，　SOAS図書館で31種の宝巻原本に接した。 　その中で「劉文英宝町』上下2巻は極あて稀襯に属するが如くであり，且つその梗概を同じ くする「玉帯四宝巻』とともに明代の輝輝文学との関連が指摘できるものである。 　そこで劉文英宝巻考なる一文を草し，併せてSOAS図書館所蔵の宝巻目録を附載すること にした。博雅の君子の御叱正を切望する次第である。 第一章　宝巻の研究と資料の収集刊行 　宝丹を本格的に文学研究の資料として取扱い，且つ38種の唱導の提要を示して後の黒馬研 究の基礎を築いたのは，周知の通り鄭説明氏の「仏曲叙録」2）である。 　一方，この後，向耳蝉は「明清之際之外巻文学与白蓮教」3）なる論文で，黄育鞭の『破邪半弁』 に触れっっ，単巻の持つ宗教資料としての価値に言及し，白蓮教との関係，即ち民間の宗教的 秘密結社との関連に注目した。 　ただ，宗教資料として宝巻を見る場合，民衆に対する勧戒を内容とする点からこれを善書の 一種とする見解もある。 　ところで，塚本善隆氏は1951年目書かれた「宝巻と近代支那の宗教」4）の中で，説唱文学，即 ち語り物としての宝丹に関する現況報告として「蘇州の岡寺から京都に留学していた私の懇意 な一青年僧は，今も蘇州の相当な家庭では，父母や祖父母の喜寿の賀や祖先の追善法要の時に， 宣巻的を招いて宝巻を唱わしめることが行われていると語っていた」と叙べられているが，最 近の鈴木健之氏の報告5）では，現在も江蘇省においては父母の長寿を願って「延寿宝巻』を講じ て貰うなど語り物としての宝巻が民衆の生活の中に生き続けているとのことである。 　さて，鄭氏の「仏曲叙録」以来，中国では宝巻の収集が行われ，それに基づいて書目等が作 1）吉岡義豊『道教と仏教第三」の「中国民衆信仰の中の達摩大師」参照。 2）　鄭振鐸『中国文学研究』下に収録。 3）　向達『唐代長安与西域文明』に収録。 4）　「支那」を「中国」と改め、『塚本善隆著作集』第5巻「中国近世仏教史の諸問題」の中に収録。 5）　「生きていた語り物「宝巻』」（「東京学芸大学紀要』社会科学　第45集所収）。 36 Artes　Liberales No．　58，　1996 成された。その中で重要なものは電導華氏の『宝巻総録』，酸葉螢雪の『誉詞宝巻書目』，李世 喩氏の『宝巻綜録』等であるが，就中，李世喩氏の『宝巻綜録』は従来の書目を集大成し，未 著録のものを整理したもので，中国内において知り得る範囲の宝巻は悉く記載されているとさ れる。 　この『宝巻綜録』には高評前面所蔵にかかる285種（版本408種）の宝巻も著録されている が，我が国の野口鐵郎氏に語ったところによれば，文化大革命の騒動の中で，すべて失われた という6）。 　ただし，雨露楡氏が天津図書館に保存させておいた紅陽教善蔭堂などの教門の百種ばかりの 宝巻は，文化大革命の際に失われたと思われたものが，1989年に同図書館で再発見され，それ らの目録は撲文面氏の近著『中国民同秘密宗教』の中に付録として収載されてる。 　一方，我が国では鄭氏の研究に刺戟されて，吉岡面住，塚本善隆，沢田瑞穂，酒井忠夫，倉 田淳之助の各氏が，道教・仏教・文学・善書・語学との関わりで研究を発表され，また井上紅 梅氏や高倉正三氏のように，「謡曲叙録」を抄訳したり，内巻を収集する人々も出た。 　このうち，沢田瑞穂氏の『増補宝巻の研究』は我が国の蛭巻研究の水準の高さを最も良く示 したものと考えられる。 　そこでは沢田氏は明清の這出を「原初宝巻時代・