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社会福祉研究　400?30 編集部：fukushikenkyuu@kousaikai.or.jp 社会的正義と公的扶助：公共的相互性の意義を問う １．はじめに 　貧困は不正義か？一般的に，そうとはいえないだろう．だが，貧困を社会的に放置することは不正義だ，とはいえるかもしれない．本稿では，はじめに，公的扶助を支える正義の概念を明らかにしたい．つづいて，公的扶助のしくみを持続可能とする論理を探りたい． 　「これは不正義だ」という告発も，「これは正義か？」という問いかけも，強く手厳しい．そこそことか，まあまあとかの感覚は通用しないし，何か別の喜びや満足で，代替して補えるものでもない．あることがらが不正義だとしたら，たとえそれによってどんな効用がもたらされるとしても，そのこと自体の問題性が打ち消されることはない． 不正義とそうではない状態との間には，明白で決定的な断絶がある．不正義を是正するには，不正義それ自身に立ち向かうほかはない． だからこそ，不正義に抗し，不正義を回復する責任は，無条件的に，また，無限定的――空間的にも時間的にも――に，広がる可能性をもっている．ある人びとの被った不正義は，当事者たちの範囲をはるかに越えて，遠くはなれた人びとのアクションを喚起する――後述するように，コミットメントの持続を保証するものではないとしても――ちからをもつ． 貧困は，それとは少し事情が異なる．貧困は，病気やら災害やら本人の経歴やらいろいろな要因が積もり重なって，不幸としか形容のしようがない状態をさすことがある．その反対に，物質的な欠乏は明らかではあるものの，芸術やら冒険やら，とてつもない大きな夢を抱えながら，本人が自ら耐え忍んでいると推察されることもある． しかも，「餓え」に至らない限り，貧困と貧困ではない状態との切り分けは，さほど明白ではない．貧困を是正しようとすると，しばしば，背後にひそむ別の問題，容易には解きほぐすことのできない個人の悲しみや切なさに行き当たる． そのためか，貧困に抗し，それを回復する責任は――「貧困からの脱出」という言葉が示すように――，多く本人や近しい人たちの努力や意思に帰せられる．ある人びとの貧困が，広く人々の同情をかうことはあっても，遠くはなれた人びとのアクションを直接，喚起するところまでにはいたらない． このように正義と貧困は異なる性質をもった概念だ．にもかかわらず，貧困を正義と結びつけて論ずるとしたら，議論は，おのずと明確な方向性をもつことになるだろう．正義の観点は，貧困を，別の喜びや満足によっては代替不可能な問題として位置づけること，また，他のさまざまな問題との関連性に留意しつつも，貧困それ自身の問題性に着目すること，さらに，貧困への抵抗，貧困の回復を広く社会的な責任として位置づけることを要求する． その一方で，正義の観点は，貧困という状態とそうでない状態との間に，明白な断絶をおくことになる．???その断絶は，貧困者とそうでない人びととの断絶につながるおそれがありはしまいか．また，貧困を，社会的に対処すべき問題，すなわち社会問題として明確に位置づけることになる．???そのことは，貧困がもつ個別的な意味を捨象するおそれがありはしまいか． はたして，このような立論のしかたは妥当なのだろうか．貧困を正義とむすびつけて論ずることには，どんな意味があるのだろうか． 貧困を正義とむすびつけて論ずることの意味は，働かずに金を得られる公的扶助のしくみは正義にもとる，という人びとの常識的な直観に，いささか逆説的だが，読み取れる．そこには，不正受給の大合唱に混ざって，そもそも働かないで食べていくことをゆるすしくみは不公正だ，何ら義務をともなわない権利の享受は不当だ，などの声が含まれる． また，そのより積極的な意味は，困窮している人びとを社会が見過ごすことは，端的に，許されないはずだという，人びとが漠然と抱いている正義の感覚に求められる． 本稿では，第一に，正義に関する規範理論にもとづいて，公的扶助の公正さに関するこれらの直観や感覚の確からしさを吟味したい．結論的には，公的扶助を支える独自の正義概念が存在すること，それは市場や他の社会福祉制度を支える正義観念と両立可能であること，しかも，ある場合には，それは他の正義概念に優先して適用されることが確認される． 　このような公正さに関する人びとの認識は，制度に対する人びと自身の姿勢に少なからぬ影響を与える．不公正だと思う制度を，ひとはあえて支えようとはしないだろう．だが，公正だと信ずる制度であれば，ひとはそれを支え続けていこうとする，といえるだろうか．先述したように，正義は，人びとのアクションを広く喚起するちからをもつ．だが，個人のコミットメント―