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修士学位論文 J-PARC 主リングの加速能力増強のための新しい 加速空洞冷却システムの基礎研究 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 076059 末廣 徹 平成21 年1 月 概要 世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成する加速器と、その大強度陽子ビームを利用する実 験施設で構成される最先端科学の研究施設である大強度陽子加速器施設 J-PARC( Japan Proton Accelerator Research Complex ) は、現在第一期として建設中である。この施設では、 世界最高クラスの加速器を用いて物質?生命科学、原子核素粒子物理、核変換に関する研究など を行うことが考えられている。１次粒子として陽子を利用でき，２次粒子として中性子ほかの 種々の粒子を使えるため，原子力科学に関係する断面積測定，遮蔽実験などのビーム利用実験も 可能となる。また，核変換実験施設は，原子力エネルギーに直接関係するものである。このJ-PARC では更なるビームの大強度化が計画されている(第二期)。第二期ではメインリングのビームエネ ルギーを第一期の30GeV から50GeV に増強するため、加速空洞が大パワーに耐えうる構造で ある必要がある。しかし、現行のメインリングの加速空洞では第二期計画における大パワーに耐 えることが出来ないと考えられている。その理由の一つとして、長期使用での加速空洞コアの务 化がある。メインリングのコアには株式会社日立金属が開発した金属磁性体である FINEMET をカットしたコアが用いられている。現行の水冷システムでは、長時間の運転により錆が生じ、 务化することが考えられる。表面にはエポキシによるコーティングが行われ、直接水が触れない ようになっているが、カット面にはコーティングが行うことが出来ない。このコアは約 18μm のリボンがコイル状に巻いてある構造をしている。このリボンの１枚１枚はシリカの層で絶縁さ れており、渦電流が生じないようになっている。したがってコアをカットする際、カット面でシ ョートしてしまわないように、非常に細かい研磨である、ダイヤモンド研磨を行う。その結果こ の面は非常に滑らかになり、コーティングを行うことが出来なくなってしまう。そのため水冷で はカット面に錆が生じてしまう。コーティングの防水確実性も不透明である。また、現行の水冷 システムでは層流で流速を出しているため、冷却効率は第二期計画に対して余裕はない。そこで 冷媒を水から油( ノルマルパラフィン) に変更し流速を上げ、乱流にすることにより冷却効率の向 上を実現するFINEMET 加速コア冷却システムを開発することとなった。まずは新素材である FINEMET の熱特性の測定として熱伝導率の測定を行い、電磁場解析ソフトHFSS によるコア 内の磁場分布のシミュレーションと、これらを使用してANSYS でコア内の熱分布をシミュレー ションした。現行の水冷モデルと油冷モデルのシミュレーション結果を比較することにより油冷 システムを設計する上で留意する点などを調べた。その結果熱伝導率の測定によって正確な異方 性熱伝導率を求めることができ、HFSS によってFINEMET ではコアの磁場分布がアンペール の法則で見られる1/r 則が破られていることが分かり、ANSYS によって油を使用した冷却シス テムでは乱流を引き起こす0.6m/s プラス十分なマージンを持った流速が必要であることが分か った。この値は現行の水冷コアの 6 倍の流速になり、流路の設計をする上で非常に重要な情報 であり、熱伝導率の測定値と共に冷却用流路の設計に対して大きな貢献となった。 1 目次 １章 序論 ２章 J-PARC 計画の概要 2－1 J-PARC の物理 2－1－1 ニュートリノ振動実験 2－1－2