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広島の経済復興 ～ダイヤモンド理論からみた産業クラスターの形成～ 大川富美 （特定非営利活動法人ピースビルダーズ研究員） １．広島の復興の研究意義 １．１ 研究目的 日本の西部に位置する人口約117万人の都市、広島市。札幌、仙台、福岡と並ぶ地方中枢都市としての地位を確固たるものにして久しい。現在の街の姿を目にすると、63年前にこの都市が、一発の原子爆弾によって、焼け野原になったとは、想像するのも難しいくらいである。 しかし、第二次世界大戦末期の1945年8月6日、アメリカによって原子爆弾が広島市中心部に落とされ、約14万人の命を奪い、街を一瞬にして焦土と変えたのである。当時、アメリカの研究者が被災した広島の地を、「70年間草木も生えない」と評したことはよく知られている。 なぜ、広島は原爆によって、これほど甚大な被害を受けながら、短期間のうちに復興することができたのだろうか。広島を訪れる人、特に多くの外国人が抱く疑問である。原爆資料館で、その原爆のもたらした惨禍をまざまざと見せ付けられて出口の階段を降りてくると、完全な近代国家として活気のある街が目に飛び込んでくる。現在、長い紛争を経験し、荒廃した国や地域を立て直そうと尽力している海外からの訪問者や研修生には、広島は奇跡的な復興を遂げたモデルケースに見える。 しかしながら、これまで実施されてきた原爆被害についての膨大な調査や研究に比べると、広島における復興、特に経済復興はあまり調査研究の対象になることがなかった。被害の全容把握自体が困難を極めた、というのも一因かもしれない。行政による復興誌や市史、県史で復興への過程や行政施策は拾い出すことができるが、経済的な建て直しとその後の発展の鍵となるものは明確にはされていない。 世界の紛争後地域で、広島の経済復興の経験を生かすことはできるのか。それが今回、海外からの研修生を多く受け入れている国連訓練調査研究所（UNITAR）広島事務所からの依頼で、この論文を執筆することになった所以である。 １．２　原爆被害からの復興 広島市を抱える広島県は、人口約２８８万人で全４７都道府県のうち１２番目、県内総生産は１１位の116,490億円（2004年度内閣府「県民経済計算年報」）で、地方の政令指定都市を含む県としては、特段目だった地位ではない。県内にはスキー場も含む山間部と海水浴が楽しめる沿岸部があり、瀬戸内海に面した工業地帯を産業の中心に据えながらも、さまざまな農作物栽培や漁業も盛んであり、日本の地形や産業を凝縮していることから、日本の縮図、または箱庭などと称されることも多い。 　そんな広島は、明治時代に、当時の鉄道の西端であり、港も整備されていたこともあり、軍都として整備されていった。約20キロ離れた呉市には、海軍工廠が作られ、アジア一の軍港となった。 軍都であった広島市は、太平洋戦争で、世界で初めて原子爆弾が落とされた都市となった。アメリカ空軍のエノラ?ゲイが落とした原爆は、市に壊滅的な被害を与えた。死者、負傷者、行方不明者はおよそ20数万人に達した。 　広島市の原爆投下前の推定人口は28～29万人とされているが、1945年12月までの原爆による死者数は、およそ14万人、誤差プラスマイナス1万人とされており、その正確な被害状況は現在でも定かではない。 　広島市による調査では、市内の建物の90％以上が被害を受けたとされ、広島市長崎市原爆災害誌編集委員会によると、資産の損害総額は、8億8410万円にのぼると推計されている。また、爆心地から3キロ以内に稼動していた工場512の８割が使用不能の「大破」以上の被害を受け、さらに銀行や会社に関しても、3キロ以内には292あり、市内全銀行?会社数の８割が壊滅的な打撃を被った、と推定されている。 このように、戦前、戦時中、軍都として中国地方随一の工業都市を形成していた広島市は文字通り、原爆投下で廃墟となったのであった。 この歴史的事実を鑑みると、それから63年を経た現在の広島市が、中四国地方最大の産業都市として復興し、原爆ドームをはじめ、市内にいくつか点在して保存されている被爆建物を除けば、被爆の爪あとがほとんど見られないのは、まさに「不死鳥のごとく蘇った」と形容されるにふさわしいといえるだろう。それも60年の月日をかけて徐々に復興したのではなく、原爆投下後20年のうちには、広島県の県民所得は国民所得を上回るほどに回復したのである。 １．３ 　広島の産業発展の系譜と特徴 広島県の戦後の経済成長は、戦前から盛んだった造船、機械、衣服などの製造業が、臨海部を中心に発展したことに牽引された。その製造業の中心となってきたのは、自動車と造船に代表される重工業である。製造品出荷額の内訳を見ると、1950年は、化学工業製品が