四至肠示絵図考-hist.PDFVIP

廃史地理学 144 21~43 1989.3 四至腸示絵図考 吉田敏弘 W E 境 E 一 一 む す 定 シ 吟 味 立 券 め ド絵 設 I 界 荘 の 図 は の 園 l : p - 一 一 て の 市 勝 一 は， 日常的に体験しうる景観の諸要素を，ある び に ス テ 過 程 四 絵 代 え ム て と と し 四 至 至 図 ひとつのモテゃルに見立てることによって成立す る。絵図のなかには，こうしたモデル化された 鰐 不 一 景観・空間表現を明快に表現している場合も少 なくないのであって，こうした作例を丹念にす くいあげ，個々に綿密な考証を加えてゆくこと が，現段階の課題となろう。 しはじめに 本稿は，こうした課題意識に立脚して，日本 歴史地理学における古絵図研究の課題が，風 中世の荘園絵図の一類型である「四至鰐示絵図」 土や文化を異にした歴史的社会における，問主 を取り上げ，そこに表現された空間認識の構図 観的な空間認識像の追求に求められるようにな を考察するものである。事例となるのは，備中 ったことは， 1980年代以降の顕著な動向のひと 国足守荘絵図，紀伊国神野真国荘絵図，紀伊国 つであった九以来10年の歳月を重ねることに 持田荘絵図の三点であり，いずれも京都神護寺 なったが，近年の歴史学・地理学における絵図 の所蔵になる12世紀の絵図とL、う共通点をもっ 研究の活性化によって，ょうやくこうした課題 ている。しかもこれらは I四至臆示絵図」の にアプローチずる環境が整えられてきたように 名が示すように，当時の荘園の境界を設定する 思われる。 システムであった四至臆示を表現主題としてお 絵図が，それを作成し，それを共有した社会 り，境界をめぐる空間認識を考察するための好 の空間認識を如実に示す史料であることは，既 適な条件が備わっていると解される。 に多言を要さない。欧米においても，例えば， 近年の中世史における荘園絵図研究において D.Woodwardの中世マパムンディの研究2) に も，これらの絵図が度々取り上げられており， みられるように，従来ともすれば地理的知識の 研究の便宜が与えられている。しかし歴史学 多寡から説明されがちであった古地図の構図を， の絵図研究においては，絵図の虚偽性を強調す むしろその時代の空間観念や空間把握の観点か るあまり，ともすれば作成主体の利害に基づく ら説明しようとする気運が芽生えている。水津 作成意図を過大に評価し，作成目的一元論のご 一朗は，絵図や風景画などの景観表現に，非日 とき解釈に終始する傾向をなしとしない。しか 常的な庭園や社寺建築等の造景と一脈通じる， も，歴史学が四至臆示や荘園立券の問題に，意、 理想化・理念化された景観の型(コード)を見 外に関心が薄かったことも，解釈の可能性を狭 出したが3) これは空間認識の構図にもそのま める一因になったのではないかと推測される。