怖いのは烟草ではなく酒.doc

浴槽内死亡の因果性 ―「溺死」をめぐって― 東京都監察医務院 監察医長　小島原 將直 お医者様でも　　草津の湯でも 惚れた病は　　　治りゃせぬ 　　　　　　　－草津節 － １ はじめに　 有史以来急激な老人人口の増加により、今や未曾有の老人大国となった日本。それ故医療費は増大し、国の財政を逼迫せんばかりで、諸予防を最重要対策とする所以です。 では、百歳までの長寿も夢ではないのでしょうか。そうは問屋がおろしません。浴槽内死亡という関門が待ち構えています。これには、日本の文化?風習が深くかかわっており、一朝一夕に解決する問題ではありません。国が及び腰になるのも当然です。 では、その実態を見ていきましょう。 2　入浴に伴う死（入浴関連死） 　 狭義：浴槽内の死～全身あるいは頭部の一部を除いて水中没入。ただし水面上に頭部を出したり、浴槽縁から上半身を外に乗り上げたり、あるいは手?足だけ外に出したりする場合もあり。栓が抜けて水がない場合もたまにある。 　　広義：洗い場、脱衣場、そのまま居室に戻っての死。さらに洗い場から浴槽内に転落したような場合も含める。 3 ＷＨＯ国際疾病傷害死因分類（別記） 4 家庭内溺死の推移（別記） 　　 大規模なアンケート調査（救急隊長、搬送病院医師） 　　 →　推定される入浴関連死は、溺死の４～６倍 　　　　 現在全国で年間約１万数千人。 5 溺死の定義（法医学上） 　 イ．狭義の溺死：第Ⅰ期（驚愕呼吸）?????第Ⅳ期（痙攣性呼吸）～第Ⅴ期（呼吸困難）～ 　　　　第Ⅵ期（終末呼吸）。全過程は５分前後　→　解剖所見の溺死肺～乾性肺水腫 Trocknes Odem。 　　ロ．水浴死（Badetod）　主にドイツ語圏で使われている。水の中で急激に死亡。死体所見上、典型的な溺死の所見を示さない。原因には諸説あり。 　　　　＊欧州語には「湯」という単語なし。 独語　warmes Wasser　　熱湯なら　　独語　siedendes Wasser 仏語　eau chaude　　　　　　　　　　仏語　eau bouillante 6 入浴（関連）死の実態～　死体検案調書の絵から 溺没例においても呼吸困難で苦しんだ通常の溺死とは異なる状況である。 　 因果性（Kausalit?t）から二段階を踏んだ死と考えられる。前提は意識消失、失神である。 　（長湯では傾眠、「のぼせ」（～脳充血？）もあり得るが）。 7 意識消失、失神（Ohnmacht,syncope）の原因 イ．血管迷走神経反射性～若年者に多い脳貧血 　 ロ．心臓性～多いのは調律異常（Adams－Stokes型発作） 　　　 この中に一過性とならず致命的となるものも含まれる。 　 ハ．その他　低血糖 　 　　　　　　起立性低血圧 　一過性脳虚血発作transient ischemic attack（TIA） 　　　　　　　 （この原因に２などが含まれる） 8 ７を来す病変?病態 イ．器質的organisch～器官（臓器）の、器質的疾患。 　 ロ．機能的funktionell　機能的発作 9 故に溺水を伴う場合には 　 溺水と死戦期の溺水と区別は往々にして困難。 10 死戦期　Agonalzeit 　 Agoeie＝Todeskrampf（死の痙攣） 　　源語はギリシャ語、死にぎわのあえぎ 　　臨終で大きな呼吸をしたら、もう動かなくなったなど。 11 首をかしげたくなる高齢者の典型的な浴槽内死亡例の解剖所見 　①　溺死肺 　②　食欲尋常ないし旺盛を物語る胃内容物 　③　心重量は正常範囲内、全身の動脈硬化は比較的軽度（有意な器質的病変なし） 　④　アルコール、薬物は微量、又は検出されず。 即ち機能的な発作 12 Ich habe das auf dem Sektionstisch gesehen!（私はこれを解剖台の上で見た） 　 三浦謹之助（1864～1950）の欧州留学中、ドイツのゲルハルト内科教授が患者を診療して診断をつける時に時々言ったと回顧。 13 機能的発作をもたらす体内循環動態の変動 東京都老人医療センター（現健康長寿医療センター）桑島巌部長の論文（日本医事新報．平成12年11月25日） 　　ＮＨＫ「ためしてガッテン」．平成19年1月28日放送（別記グラフ） 14　１３の原理である圧受容器反射Druckrezeptorenreflex 　 動脈圧（血圧）や心房内圧のように時々刻々と変わる循環系の圧力因子を検出し、動脈圧や循環血液量を中枢神経系の反射経路を仲介して、ネガティブ?フィードバック的に調節す