家畜伝染病予防法改正の变迁.pdfVIP

原　　　著 家畜伝染病予防法改正の変遷 杉 浦 勝 明 1 　家畜伝染病予防法は，我が国の家畜防疫の基本法である。我が国の家畜防疫 制度は，明治4年（1871年）の予防法リンドルペスト家畜伝染病に始まり，明治9年 （1876年）の疫牛処分仮条例，明治19年（1886年）の獣類伝染病予防規則，明治29 年（1896年）の獣疫予防法を経て，大正11年（1922年）の旧家畜伝染病予防法の制定 に至る。戦後は，旧法に代わり，現行家畜伝染病予防法が制定され，平成23年（2011 年）4月までに9回にわたる改正を経て，現在に至っている。 1．予防法リンドルペストから旧家畜伝染病予防法まで 　我が国における家畜防疫制度は，明治の初めに満州・シベリア地方で発生した 牛疫が猛威を振るい，これが我が国にも侵入するおそれがあるとして，明治4年 （1871年）7月7日に太政官布告として発せられた予防法リンドルペスト家畜伝染病 に端を発する（図１）。 　明治6年（1873年），牛疫が我が国にも侵入し，被害を生じるに至り，明治9年 （1876年），内務省達として疫牛処分仮条例が交付された。この条例には，疫牛に 関する届出，殺処分，手当金の交付，死体の焼却・埋却などに関する事項が規定 された。 　明治7，8年には，牛疫以外の伝染病として，すでに炭疽，気腫疽，鼻疽，狂犬 病の流行が見られた。特に，炭疽，鼻疽などの軍事上に及ぼす影響の重要性から 明治10年代にこれら疾病の防圧のための施設の整備，研究の推進が行われ，それ まで発見されていなかった疾病も遂次解明され，畜産の発展のためこれら疾病の 防疫の重要性が社会的にも認識されるようになった。これを契機として，明治19 年（1886年），農商務省令として獣類伝染病予防規則が牛疫処分仮条例に代わり制 定された。 　獣類伝染病予防規則では，①牛疫，炭疽，鼻疽及皮疽，伝染性胸膜肺炎（牛肺 SUGIURA Katsuaki：History of the Domestic Animal Infectious Diseases Control Law - 1 連絡先：東京大学大学院農学生命科学研究科 〒113 8657 東京都文京区弥生1−1−1　 （2012年11月19日受付・2012年11月25日受理） 日本 獣 医 史 学 雑 誌 50（2013） 1 図1 現行家畜伝染病予防法制定に至る変遷 「予防法リンドルペスト家畜伝染病」 明治4年太政官布告第276号 「疫牛処分仮条例」 明治9年内務省達乙第20号 「獣類伝染病予防規則」 明治19年農商務省令第11号 「獣疫予防法」 明治29年法律第60号 「畜牛結核病予防法」 明治34年法律第35号 （旧）「家畜伝染病予防法」 「馬の伝染性貧血に罹りたる 大正11年法律第29号 馬の殺処分に関する法律」 昭和4年法律第9号 昭和23年 （現行）「家畜伝染病予防法」 昭和26年法律第166号 疫），流行性鷲口瘡（口蹄疫），羊痘の6疾病をまん延防止措置の対象とし，②獣 医師・所有者（管理者）による届出義務，③牛疫が発生した場合のと畜義務，④手 当金の交付，⑤汚染物品（飼料など）の焼却・埋却義務，⑥知事などによる移動制 限の命令権限などに関する規定が設けられた。 　明治25年（1892年），朝鮮からの輸入牛を介して牛疫が再び我が国に侵入し，畜