奨学金相谈Q＆A-okinawa.PDF

奨学金相談Ｑ＆Ａ １、「奨学金」制度の何が問題か ①「金融事業」に変質した「奨学金」制度 日本育英会が２００４年に廃止されて独立行政法人・日本学生支援機構に移行してから 「金融事業」として位置づけられ、返還金の回収強化が進められてきました。２０１０年 ４月から返済中の利用者は延滞３カ月の時点で、個人信用情報機関に延滞者として通知さ れ、冒頭の見出し記事のように、登録者が２年も立たずに１万人を超えています。延滞４ カ月で民間の債権回収業者へ業務委託され、延滞９カ月で法的措置も積極的に進められ、 支払督促申立件数は２０００年３３８件から２０１２年９５８３件と急増しています。 奨学金は本来、返済の必要のない給付制が欧米では主流ですが、日本ではほとんどが返 済が必要な貸与（ローン）となっています。機構の奨学金については、無利子貸与（第１ 種）に対して有利子貸与（第２種）の比重が増し、現在では、財投機関債や民間借入金を 財源に組み込んだ有利子貸与が、無利子貸与の３倍の規模となっています。「奨学金」を 受給する学部生（昼間）が大学独自の「奨学金」も含めて５０．７％（２０１０年度機構 調査）を超え、単年度で１兆円を超える予算規模となる中、投資事業としての効率性を求 める金融資本の意向を受けて、有利子貸与の比重が増大し続けたことが大きな原因です。 ２０１２年２月、外務省が国際人権規約「中等・高等教育の斬進的無償化」条項の『留 保』撤回を表明しましたが、日本の高等教育支出における私的負担の重さは「斬進的無償 化」に相反する状況となっています。高等教育に対する公的支出が国内総生産（ＧＤＰ） 比で０・６％と経済協力開発機構（ＯＥＣＤ）平均１・２％の半分であり、加盟国中で最 低の水準です。多くの若者たちが、大学を卒業する段階で数百万円の借金を背負い、社会 に出る時に仕事がない、大学卒業者でも初職から非正規であるものが２割を超える実態が 延滞者の急増をもたらしています。機構の属性調査でも、滞納者のなかでアルバイト、無 職、休職中が５６％になり、あるいは年収３００万円未満が８７％に達しています。返し たくても返せないのが実情です。 ②給付制奨学金創設と現行「奨学金」の制度設計の変更が急務です。 ２０１４年から、高校について、一部「奨学のための給付金」が導入されましたが、高 校無償化に所得制限を設け、浮いた分を財源に充てるという限られた教育関連支出の中で やりくりをしているに過ぎません。機構の奨学金では、２０１２年度から年収３００万円 未満を対象に所得連動型の返還猶予制度が導入されましたが、適用は新規のみで、現在の 「滞納者」は対象外です。また、文部科学省は「延滞金の充当順位の見直し」についても 初めて言及していますが、延滞に陥っている返還困難者が「少額でも」と返還しても「延 滞金」から充当され、「元金」が減らない仕組みは貧困に拍車をかけるだけです。機構の 奨学金における、経済困難を理由とした「返還猶予」５年上限の仕組み（２０１４年４月 から１０年に延長）も、不安定雇用が蔓延する社会の実態とはかけ離れた制度となってい ます。奨学金の問題に取り組む団体の多くが、「給付制奨学金」制度の創設と学費減免制 度をすべての高等教育機関に拡充し、教育と雇用をつなぐ政策への転換を求めています。 このような中で、一人でも多くの弁護士が奨学金の相談に関わることは、今後の相談体 制を確立する上でも重要な取り組みであるとともに、奨学金問題の実態を明らかにして、 - 1 - 「将来の安定した雇用」を担保にした現行の「奨学金」のあり方を根本から変えていく一 歩になると思います。 ２、奨学金事業はどのように運用されているか 奨学金事業について具体的な運用は、「業務方法書」「奨学規程」「返還期限の猶予に 関する施行細則」「延滞金の減免に関する施行細則」「債権の償却に関する細則」その他 によって定められています。 ３、Ｑ＆Ａの構成 ホットラインにおける相談に適切に対応するには、機構の奨学金制度についての基本的 理解と、過去の相談事例に照らして必要と思われる法的対応についての基本的な知識が必 要不可欠です。 前者については、奨学金の種類と内容に留まらず、制度上の救済制度の内容とその限界 、運用上の問題点についての基本的な理解が必要です。 また、過去の相談事案では、消滅時効の援用などができ