自生的秩序と个人主义的秩序-J-Stage.PDF

自生的秩序 と個人主義的秩序 ハイエクの 自生的秩序論における正義論的秩序問題 土 場 学 本稿 は,ハイエ クの 自生的秩序論 を,「個人主義的秩序 はいかに して可能 か」 とい う正義論 的秩序問題 に対す る解答 として捉 える視 点か ら分析 し,その問題 点 を析 出す る.ハイエ クの 自生的秩序論 は,個 人 の 「自由」 と社会 の 進「歩」 が整合 的に進展 してい くプ ロセスを証示す ることを最大 のね らい としてい る. しか しそ こで重要 なポイ ン トは,ハ イエ クの論証 は, ル「ール ・システムに従属 した＜主体 ＞」 を公理 とす る 「自生的秩序」の論理 と ル「ール ・システムか ら 独 立 した 〈非主体 〉」 を公理 とす る 文「化 的進化」の論理 とい う二つの異 な る 論理 的位相 の もとで成立 してい る, とい うことである.し たがって, いずれ に せ よそ こには ル「ール ・システムか ら独立 した＜主体 ＞」は存在せず, ゆえに 結局, ハイエ クの 自生的秩序論 の も とでは個人主義的秩序 にかんす る正義論 的 秩序 問題 は意味 をな さないのである. 1 は じめに デュルケームやパーソンズにいわれるまでもな く,個人主義的社会理論は 社「会 秩序はいかにして可能か」 という秩序問題 を解決すべき責務を宿命的に負わされて いる.ある意味で,個人主義的社会理論の歴史は秩序問題 との格闘の歴史でもある. か くして個人主義 を奉ず る社会理論家たちはこの難問を解 くべ く延々 と脳奨を絞 っ てきたのであるが,その歴史的成果を俯瞰 してみると,大きく分 けて二つの解決方 法 をそこに見いだす ことができる.すなわち一つは,社会秩序は社会 を構成す る諸 個人の意図的な設計により構築 されたものである,とみなす設計主義的な解決方法 であ り,いま一つは,社会秩序は社会 を構成す る諸個人の相互作用の意図せざる結 果 として自生的に生成 したものである,とみなす自生主義的な解決方法である.こ れら二つの発想の源泉はおそらく古代 ギリシャまで遡 るが,近代の社会理論家のな かでは,前者の陣営ではホッブズ,後者の陣営ではヒュームがなんといっても将軍 格であろう.そして,彼 らの社会理論の基本的スタンスは,ときに論争などを交え なが ら今 日に至るまで脈々 と継承 されている1). ところで,盛山 (1991)によれば,秩序問題 といっても,そこには理論上区別し て捉 えるべき二つの問題領域がある.すなわち一つは,秩序問題 を記述的な問題と みなす 経「験論的秩序問題」であ り,もう一つはそれ を規範的な問題 とみなす 正「 46 (1・2) 2 義論的秩序問題」である.つまり簡単にい うと,経験論的秩序問題 においては社会 秩序 という概念は(理論家の定義する)規範的意味 とは無関係に画定 されるのに対 し,正義論的秩序問題 においてはそれは(理論家の定義する)規範的意味 と不可分 なものとして捉えられる.たとえば,パー ソンズが 社『会的行為の構造』において 定式化 した ヂホッブズ的秩序問題」を考えてみよう.パーソンズの秩序概念が曖昧 なためこのホッブズ的秩序問題が全体 として上述の二つの秩序問題 のいずれに属す るのかはにわかには判別 しがたいが,しか し少な くとも,パーソンズのね らいが 功「利主義的社会理論」の徹底 した否定にあることを汲み取れば,彼が定式化 した 限 りでのホッブズ的秩序問題 は 功「利主義的社会理論は功利主義的秩序を決 して導 出することはできない」 という命題を引き出すために戦略的に用意された正義論的 秩序問題 として解釈することは可能である.ただ しここで,「功利主義的秩序」 と は 最「大多数の最大幸福」 とい うベ ンサム的スローガンが達成されているような秩 序のあ りようを意味す る.したがってパーソンズは,このホッブズ的秩序問題 を用 いて,功利主義的社会理論の公理系か らはそのような功利主義が望ましい とみなす 秩序の実現は決 してi導出できないのであって,それ どころかむしろそれは 万「人の 万人に対する闘争状態」 という 「