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第四章 日本人の「无常」観

第四章 日本人の「無常」観 一、「無常」と日本文学 1.「無常」とは   「無常」は、中国古典と仏経の中に出た言葉である。 (1)万物は流転して、常住なるものはないとする「諸行無常」の思想 (2)万物の流転することを認識し判断する主体そのものが無常であるとする「五蘊無常」の思想 (3)無常も有常もない、有無の対立とか差別とかを超越した涅槃に到達した時に、はじめて真の無常観=空観(からみ)が成立するとする思想 2.日本文学での「無常」 この三つのうち、日本文学に関わりを持ち続け、またある程度まで日本の民衆の精神生活に浸透していたものは、もちろん、(1)の万物流転の無常観である。つまり、世間すべての物が生滅、変化して常住でないことを言っている仏教的な意味で使われている一方、また人生のはかないと言う日常的な意味で使われている。 日本人の美意識の底には常に自然との一体感と仏教の諸行無常の考え方が流れている。しかし、時代の雰囲気によって表現される美意識は異なる。 (1)もののあはれ 日本人が中国文化の影響を消化し、独自の文化精神を作り上げたのは平安時代とされているが、この時代に支配的だった美意識が「もののあはれ」である。 「もののあはれ」論は、本居宣長の『源氏物語玉の小櫛(おぐし)』の文学論から出始めた。「もの」すなわち対象客観と、「あはれ」すなわち感情主観の一致するところに生ずる調和的情趣の世界を言っている美意識として、優美、繊細、沈静、感傷的理念である。 あらゆる物事の中にはかなさを見て、心に感動を生じる様子を言うこの「もののあはれ」は、『源氏物語』を始めとする文学の世界にそれを色濃く反映された。 (2)「幽玄」と「侘び」、「寂」 戦国時代が終わり、心の落ち着きを取り戻した時代に力を得た中世の人が求めた美意識に戦国乱世の終わった後の人生無常が秘めこんだ「幽玄」があった。 この美意識の根底にあるのは仏教的な考えである。中世の連歌論が始めて日本人の美意識を正面から論じた。連歌論に「飛花落葉」という言葉があるが、自然の中に生きるもののはかなさを説く仏教の無常観が「幽玄」の美意識に形作った。「幽玄」の美意識は、後世の俳句にも引き継がれていく。たとえば俳句で言う「侘び」「寂」は、いずれも寂しさの契機を含んでおり、そこにやはり無常観の影響が見られる。 また日本の芸術作品は、「間」とか「余情」を大切にする。江戸時代以来の日本の邦楽、邦舞、演劇では、間の取り方が重要であり、書道でも絵画でも、余白の空間に大きな意味を持たせる。文学作品にあっても、すべて言い尽くさず、言葉に表さない所で美を感じさせようとする。 また、茶道にも奢らず質素のなかに、豊かさと静かな心を秘めた「侘び」という美意識を求めている。千利休をはじめとする茶道の宗匠たちは、一輪の野の花や日常雑器の中に美を見出した。「寂」は松尾芭蕉を中心とした俳句の世界で言われた美意識で、静かな孤高の心境を言う。 したがって、日本人の美意識では、不完全の美を求める傾向が強い(中国は、左右相称、シンメトリーの美しさを求めているのが多い)。たとえば、俳句という短詩形の言葉芸術は、表現が不十分に見えるが、言葉で表現された部分よりも、内面にこめる感情が大切だという考え方である。 「古池や 蛙飛び込む 水の音」 芭蕉  (寂静古池塘,蛙入碧水清荡漾,乍闻幽驹响) (3)いき 江戸時代に町人が作り上げた美意識で、気が利いてセンスのよいことを言う。気持ちや身なりがさっぱりとあかぬけしていて、しかも色気を持っていることを指している。実際の行動に制約の多かった時代に、クールで近代的な知性や感性を持つ人々の新しい美意識として定着していったと言われている。 二、「無常」と日本人の危機感 日本の民謡や童謡がよく日本人の日常生活の中で感じた無常の幻滅感を歌った。ぱっと咲いてぱっと散る桜のように、眩い美しさの後は、無限の虚しさしか残らない。 しかし、無常の世界は、日本人に哀傷と幻滅を与えただけではなく、日本人に危機感を与えた。 自然環境の無常 日本列島は、南北にわたって気候の変化が激しい。平野が少なく、川が短く、雨量が多いと洪水になりやすい。また、火山、地震、海鳴り、台風など天災地変の多い自然環境の中で、日本人は、宿命的な「無常」のもと、危機を感じる一方、自然に順応しながら、資源の乏しい島でせっせと働いた。 危機感の表現 1.無常感からの危機感は、賭け精神と結びついて日本人の勤労をもたらした。    日本人は、自然に働きかけ、弛まぬ努力と工夫を加え、稲を栽培してきた。また手間をかければかけるほど増収がもたらされて、勤労の効果がはっきりと現れた。日本人の勤労は、稲の栽培に表しただけではなく、現代企業活動の経営にも現れた。日本人は、よく

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