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平成20 年度 「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」 実績報告 平成20 年度採択研究代表者 岩井伸一郎 東北大学大学院理学研究科・准教授 先端超短パルス光源による 光誘起相転移現象の素過程の解明 1. 研究実施の概要 本研究の目的は、強相関電子系物質における光誘起相転移現象の機構を、10 fs 以下の極 短光パルスや、広帯域テラヘルツ光を用いて明らかにすることである。先端光計測グループでは、 これらの先端光源を用いた時間分解分光法の準備として、従来光源（パルス幅150 ｆｓ、近～中赤 外）を用いて、光誘起相転移のダイナミクスを限界まで詳細に調べ、本研究で明らかにするべきポ イントをより明確にした。具体的には、二次元有機伝導体 -、-型（電荷秩序型）および-型（ダ イマーモット型）における光誘起絶縁体－金属転移において、物質ごとに特徴ある初期過程を観 測し、整理した。特にダイマーモット型では、ダイマーあたりのクーロン反発エネルギーが、ダイマ ーの内部構造の変化によって減少するという新しいタイプの光誘起絶縁体－金属転移を見出し た。更にモット転移の一次転移線境界を光励起することにより、光誘起金属状態の巨視的なドメイ ン壁の振動現象を初めて観測した。次年度以降、より先端的な短パルス光源を用いて、これらの 新機構や、ドメイン壁の運動機構など、物質ごとに異なる特徴あるダイナミクスの解明を行う。また、 次年度以降の本格的な赤外10 fs パルス発生、測定に備えた準備として、赤外10 fs パルス発 生の準備段階としてフーリエ限界幅～5 fs の赤外広帯域パルスの発生、増幅とその予備圧縮（～ 25 fs）をおこなった。物質開拓グループでは、上記の先端光計測グループとの研究によって見出 された巨視的な振動現象から着想を得、より大きな不安定性を持つ系として、新たに電子-スピン 系の 3 角格子フラストレーションを内包した-(BEDT-TTF) Cu (CN) に関する研究を開 2 2 3 始した。これまでに、スピン系だけではなく電子-格子系にも3 角格子フラストレーション の影響による不安定性の兆候を見出している。臨界制御グループでは、電場下における光 誘起相転移測定とラマン散乱測定の準備を行った。これらの測定は、ドメイン壁運動の機 構や相転移に関係した格子振動モードの同定に不可欠である。理論グループでは、まず強 相関有機導体系の光励起前の平衡状態に関して、これまで扱いが不十分であった、揺らぎ や幾何学的なフラストレーションの効果を取り込むことにより、電荷秩序やダイマーモッ ト絶縁体などの多自由度系の有限温度相図を調べた。その結果、従来知られていなかった 複雑な電子格子結合状態が「自己組織化」され、電荷秩序、ダイマーモット、スピンパイ エルス状態の競合や共存が起こることを理論的に明らかにした。更に、光誘起相転移の核 となる光励起状態の物理的性質を解明するために、上記の電荷秩序系やダイマーモット系 などの低次元有機伝導体を記述する単純化された少数サイトモデルを用い、光励起状態を 数値的に厳密に計算し、その物理的性質を明らかにした。これらの２つの異なる理論的取 り組み（i) 平衡状態の精密な記述と、(ii) より簡単なモデルによる光励起状態の記述は、 光誘起相転移の理論的理解のために不可欠の要素である。 2. 研究実施内容 1 先端光計測グループ 1-a) 従来光源[パルス幅 150 fs、中～近赤外(0.1-1 eV)]を用いた詳細な測定を行い、本研究で明 らかにするべきポイントを明確にし、先端光源を用いた分光データの解釈に備えた。具体 的には、物質開拓グループより提供を受けた -、-型（電荷秩序型）および-型（ダイマ ーモット型）など複数の二次元有機伝導体における光誘起絶縁体－金属転移において、物