岩石矶物矿床学会志-J-Stage.PDFVIP

岩石磯物礦床學會誌 第 三十 一巻 第 二鴨 (昭和十九年二月一巳) 岩手縣九戸郡大川目水鉛礦床 Molybdenite deposits of the Okawame mine 理學博士 渡 邊 萬 次 郎(M.W・tanabe) 理學博士 竹 内 常 彦(T .Takeuti) 緒言 水鉛礦 床が殆んど全部輝水鉛礦(molybdenite,MoS2)を主域分とし, 花崗 岩,花崗 斑岩,花崗 閃緑岩等の酸性迸入岩に伴つてf3す ることは,遍 ね く知られた所である。邸ちそのうちの或るものは,栃 木縣今市玉)福島縣田 子倉,岩 手縣三根等の一部に於けるが如く,新鮮なる花崗岩類の一部分に, 廣く不規則に分布して,そ の主成分たる石英,長 石等の間隙を充たし,その 最後の晶出物と認められる。かゝ る場合に極めて〓 々岩石中には石英,長 石等の結晶で縁とられた小間隙を不規則に分布 し,輝 水鉛礦 はこの間隙に も着生 して,時 には緑泥石,方解石等を件つてゐる。この種の輝水鉛礦は岩 漿凝結の最後に當 り,水その他の揮發性成分と共に,そ の内部に不規則に分 散集結し,熱 氣性乃至高熱水性産物として成生したものと認められろ。か ゝる場合に母岩も往々雲母化或は粘土化し,例 へば新潟縣岩船郡鹽 野町村 立石2}に 於けるものは,長 石の殆んど全部が或る種のリシヤ雲母に變 じ,こ れに鐵満重石を伴なひ,グ ラィゼン状を域し,山形縣念珠ケ關3)の一部では, 1)渡邊 萬家郎 本誌2}巻(昭 和17年)58頁 。 2)こ れに就ては近 く詳報の豫定である。 3)渡 邊萬次郎 本誌30巻(昭 和18年 》156頁。 本4012)岩 石 碑 物 礦床 學 曾 誌總54 烈しく粘土化した花崗岩中,微細な輝水鉛礦を含んでゐる。 且つこの種の花崗岩は,概ね多數の石英脈,方 解石腸等に貫ぬかれ,水 鉛礦の一部は特に多量にそのうちに含まれ,前記念珠ケ關礦床の如きは,こ の種の石英脈によつて不規則網状に貫ぬかれ,また今市礦床に於ても,この 種の細脈の兩側では,花崗 岩中特に多量の輝水鉛礦を分布するのが常であ り,この成分に豊富な岩漿最後の殘液が,そ の凝結後裂罅の中に集中し,そ の内部及び兩側に,特に多量の輝水鉛礦を晶出したものと認められる。す べてこの種の礦床に於ては,輝水鉛礦の分布が廣範圍に互り,その礦量は豊 富であるが,護 石の品位が不規則に變化し,全體 とし七平均品位が低いた め,選礦設備が充分でなければ,その開發が困難である場合多い。 この點に於て,現 在一層重要なものは,岩 漿殘液が更に一暦規則正しく且 つ大規模な裂罅 を充填した場合で,そ の或る庵のは輝水鉛礦の外に,石 英, 長石,雲 母,螢 石等を含んで,正 規のペグマタイトを成し,他 の或るものは石 英を主として,石 英輝水鉛礦脈を成す。江原道金剛1)宮 城縣丸森2}の 一部 等は前者の例であり,島根縣山佐31全 羅北道長水4)等 は後者の例と傳へら れろ。 この種の礦脈の或るものは,断暦面に沿つて生じ,〓々角礫帯を伴なび, 時にはこの種の角礫帯がそのまゝ粘土質に化し,これに輝水鉛礦を伴なふ 場合あり,福島縣南會津郡江川村金上礦床の如きはその例である。 また礦 脈の或るものは,その成生後更に兩盤の移動に會し,その盤肌に沿つて粘土 帯,或は雫行の割目を生じ,これに多量の輝水鉛礦を伴なふことあり,岩手 縣北頭5)の如きその例である。 宮城縣丸森6)の 一部に於て,蛇紋岩中を不規則網状に貫ぬく苦土雲母質 1)日 本地質學會,朝 鮮地質見學案内書(昭和10年}第2篇 。 2)渡邊 萬次郎 本誌25雀(昭 和16年}100頁 。 3)4)日 本書院發行,同 本鑛 由総覧(昭 和15年)258頁 。 5)渡邊 萬次郎