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840 講 座 LECTURE 機械・構造物の信頼性設計 5. 故障物理と信頼性理論＊ 中 川 隆 夫 ＊＊ 福 田 収 一＊＊＊ 1 故障物理の認識 団そのものを正確にとらえ得ないので, ある故障を整 機械や構造物を設計するとき, まずユーザーからの 理しても, それを単純に他の事例に適用できない. 周 要求性能を満すことはもちろんであるが, それらが使 知のように, 機械や構造物の部材の強度問題では組織 用期間中, 故障や破損なく, 安全にその使命を果すこ 敏感性が重要であり, 信頼度を問題にする領域は分布 とも重要である. このため, 強度に関する設計では, のすそ野であるから, 故障物理の認識がなければ現実 古来, 安全率が用いられてきた. この安全率は部材の 的にはこのすそ野の分布を適確につかむことは不可能 強度と設計応力との比として定義され, 種々の場合に である. また, 機械や構造物を省資源の考え方から見 応じて経験から出されたものであったが, きわめてあ て, 最近長期使用が再び要望されるようになってきて いまいであり, その値のとりかたは設計者に委ねられ いるが, これも後述の劣化現象に対する理解が充分で ていた. それゆえ, 安全率を大きくとったためにかえ なければならない. 長期使用の場合, 供用中検査が重 って信頼感をもたれないことも起っており,“不 安全 視されるようになってきたが, 前述のように機械や構 係数”とか “ignorance factor”と いう皮肉な言いか造物の多種多様な使用条件下にあっては, 使用中検査 たをされたこともあった. 安全率は決して安全の度合 に基づいて適確な判断を下すためにも故障物理に対す を示しているものではなく, 安全確保のために余裕を る認識が充分必要である. とっておくというものに過ぎない. 信頼性工学は安全 2 故障物理に基づく解析 率を故障や破壊の確率と結びつけ, さらに安全率に代 2.1 強度と寿命の統計的分布と故障率 って破壊確率または信頼度を安全性の尺度にとろうと 1) 材料強度の統計的分布については本講座の第1講 で するものである. 既に述べられているので, ここでは以下で用いる最小 信頼性工学は電気 ・電子工業の分野で早くから発達 限必要なことのみを述べる. ここでも前述の材料強度 し, 製品やシステムの品質管理, 故障修理, メンテナ (抵抗) を (応力の単位を有する) 確率変数Xで 表す。 ンス, 寿命と信頼度などに関し, その安全性の評価と (外からxな る応力が作用するときを考え,) このとき 改善に重要な役割を果してきた. 次いで土木や建築な の強度Xがxよ り小となる (すなわち破壊の起る) 確 どの構造物や造船の分野で発達し, さらに現在圧力容 率は 器や機械の分野の設計に採り入れられようとしている. FR(x)=Prob〔X≦x〕=∫x0fR(ξ)dξ 電子工業では, 製品の使用やシステムの作動は比較的 (1) 一定の条件で行われ, その故障や破壊のモードも大体