福祉社会は手段か目的か-izumi-lab.way.docVIP

二つの「福祉社会」 ―『福祉社会』と『豊かな社会』― はじめに 第1章　　　福祉国家の代替?対立概念としての「福祉社会」 第2章　　　市場を補完する「福祉社会」と福祉国家を補完する「福祉社会」 第3章　 　「福祉社会」と「豊かな社会」 おわりに はじめに　　 「福祉社会」が語られるとき、それが意図しているものは一つではない。一方には福祉国家に対立する概念としての「福祉社会」があり、他方には福祉国家と並存可能な、あるいは福祉国家の基盤となる「福祉社会」がある。これが本稿の主張するところである。 1980年代以降、福祉国家は危機に瀕している。その要因は「大きな政府」から「小さな政府」への転換にともない、福祉?社会保障費が縮小されていることにある。そして、国家によって保障されなくなった福祉は、「社会」で、つまり自助?相互扶助のみで実現していかなければならなくなっている。近年、「福祉社会」が積極的に持ち出されるのは必至のことかもしれない。だが、「福祉社会」それ自体を問うことなしに「福祉社会」を実現させることはできない。そこで「福祉社会」が何を意図しているのかを一定程度明確にする必要がある。本稿は「福祉社会」に前述の二つの理解があること、そして前者、つまり福祉国家の代替?対立概念としての「福祉社会」は経済原理（市場原理）を基盤とする構造を前提に語られるものであるのに対して、後者、すなわち福祉国家と並存可能な「福祉社会」は経済原理を超えた、あるいは次元を異にするところで語られるものであることを明確にすることを目的とする。その理由は、両者の「福祉」の理解は相容れないものであり、めざしている社会像も異なるということを明確にしたうえで議論がなされなければ、賢明な選択も不可能であると思われるからである。 　二つの「福祉社会」が意図するものを比較するために、次のように章を立てる。まず、第1章では「福祉国家から福祉社会へ」「参加型福祉社会」というスローガンに代表される福祉国家の代替?対立概念の「福祉社会」を取り上げ、その「福祉社会」が実現している社会をみる。次に第2章で、第1章で取り上げた「福祉社会」が経済原理によって主導されていること、またそこでの「福祉」のありかたを概観する。そして第2節においてW.Aロブソンが論じた「福祉社会」、すなわち福祉国家と「相互補完的」である「福祉社会」との比較を試みる。それらをふまえて第3章では、二つの「福祉社会」の違いをより明確にするために「福祉社会」を『福祉社会』と『豊かな社会』に読み替えてみたい。 第1章　　福祉国家の代替?対立概念としての「福祉社会」 「福祉国家から福祉社会へ」というスローガンは自助努力?自立、相互扶助を奨励し、1981年に発足した第二臨調が掲げた「活力ある福祉社会」は、福祉分野への民間活力の導入を推進する。この動きは1973年の石油危機以降の「大きな政府」から「小さな政府」へという転換路線の上にある。つまり、福祉財源を小さくするために、福祉?社会保障に対する責任を国家から社会（個人、家族、企業、市場etc…）へと転嫁しているのである。いいかえると、福祉国家の財政危機を克服する手段として「福祉社会」が想定されている。 この財政赤字の解消手段としての「福祉社会」は、1980年以降のいわゆる新保守主義の民営化政策に付随して登場する。1973年の「福祉元年」宣言から数年後に、早くも「新経済社会７ヵ年計画」で福祉の見直し、すなわち社会保障費の削減が検討され始める。そこでは、一方で財政赤字の大きな要因となり、他方で国民の勤労意欲を減退させているという認識から福祉国家が批判されている。そして「先進国病」への処方として、自助努力、同居家族の相互扶助、民間活力、ボランティアの活用に期待を寄せる「日本型福祉社会」が提示されている。 「福祉社会」という表現は一見したところ、福祉国家のもとでは国家から与えられるものであった「福祉」が、社会全体に存在するものとしてより身近に、また質的にも充実したものとなるかのように見受けられる。しかし「日本型福祉社会」や「福祉国家から福祉社会へ」、「活力ある福祉社会」という文脈における「福祉社会」は、それらが語られる前提に経済?財政問題がある。確かに、国家に依存することは人間をだめにするという精神論的理念も「日本型福祉社会論」にあったかもしれない。それでも、「日本型福祉社会」が「新経済社会計画７ヵ年計画」に盛り込まれたことは、「福祉社会」への移行が、福祉それ自体の検討の結果というよりは、経済?財政政策に沿うかたちへの変更の結果として進んでいることを推測させる。 ここで経済?財政政策とは、市場の競争原理を徹底することで、市場が本来的にもつ調整能力が機能するとみ