中国企业の海外进出の背景と戦略2.docVIP

中国の「走出去」政策及び海外進出の現状と課題 ―ハイアールの事例からー はじめに 中国は世界有数の直接投資受入国であるが，1970 年代末に改革?開放路線への歴史的大転換を決定してから30 年近くの間，外国企業の直接投資流入は拡大しつづけ，2002 年には海外からの直接投資の受入総額は米国を抜いて，世界一の規模となった。一方，中国からの海外へ直接投資に関しても発展途上国では最大の規模になり，21 世紀に入ってからは直接投資の拡大は加速し始めている。 「世界の工場」?「世界の市場」と言われる中国の持続的な経済成長を支えている大きな要因の一つは輸出であり，その増大を通じて工業化が促進されてきた。こうした輸出志向型の工業発展は，国内の生産力を高め，産業構造の高度化を促進させるとともに，その過程において雇用の拡大と所得水準の向上が達成されてきた。 中国は1970 年代末から始まった「改革?開放」の下で、外国直接投資の誘致や対外貿 易の拡大を推進してきた。周知のように、二つの柱によって中国経済は高成長を長年にわ たり維持し、外資導入や対外貿易の面でおいて世界上位の大国となった。1990 年代後半から、企業実力の強化、世界経済と関連の深化、外貨不足により経済発展への制約の解消などに伴って、海外に進出し世界範囲で更なる発展を図る企業は増えてきた。特に2001 年 のWTO（世界貿易機関）加盟を経てこの勢いは一段強まっている。このような状況の変 化に基づいて中国政府は企業の対外直接投資に対して従来の厳しい規制を一転して支援する姿勢に変わり、さらに「走出去（海外進出）」政策を打ち出し、国家戦略として位置付けている。この「走出去」政策に基づいて企業の対外直接投資を中心として様々な面で支援策も講じられている。すなわち、従来の外資導入と対外貿易に加え、対外直接投資やそれに基づく国際経営をもう一つの柱として中国の「改革?開放」は新たな段階に入っている。 「走出去」は中国語の表現で、海外進出という意味で、外資導入の「引進来」と対照的に用いた言葉である。言葉の表現で見ると「走出去」は、外資導入に対して資本輸出の意味で対外直接投資を指すが、後述するように実は幅広い分野が含まれる。少なくとも、「走出去」の直接の支援対象が企業の対外直接投資であるため、その政策と投資の関連は本論文の検討対象である。また、中国企業は技術面において従来の自主開発、外国技術導入に加えて、対外直接投資による技術獲得を新たな技術発展のプロセスとして認識しており、「走出去」政策にもこれを重点の一つとして推進されている。 なお，経済成長につれて，さまざまな問題が発生してきている。対外的な問題としては，中国の輸出攻勢に対する不満と輸出入を巡る貿易摩擦の拡大，国内の大量生産を維持するためのエネルギーと原材料の確保，国民所得の向上に伴う貯蓄水準の上昇と外貨準備の急増による国内貨幣の過剰流動性，及び新興産業と衰退産業の交替，などを指摘することができる。そのなかでも最も目の前に緊迫している問題は先進国からの通貨の切り上げ圧力が高まっているということである。この問題は，中国の経済発展に伴う輸出の急増と対外直接投資の動向と密接に関連している。 中国は発展途上国から抜き出していないのに、なぜ「走出去」政策を打ち出し、国家戦 略として企業の対外直接投資を推進するだろうか、どのように推進するだろうか、企業の 投資行動にどのように影響を与えるだろうか。さらに、対外直接投資は企業の競争力強化、 技術獲得にどのような意義を有するのか。本論文ではこれらの問題意識に基づいて論じる。 中国の国家的対外戦略の多様化という観点から近年急速に増大しつつある対外直接投資について考察しようとするものである。まず，中国の企業が海外へ進出する背景と動機は何か、これにより，改革開放以来の中国の経済成長に伴う海外進出の発展の諸段階を解明する。次に，「外資誘致優先」から「海外進出励行」への中国政府の国家戦略及び政策の変遷のプロセスを示して，対外投資拡大の背景とその要因を検討する。これにより，対外直接投資拡大に対する中国政府の重要な役割を明らかにする。対外投資が加速している現在中国の状況を経済発展過程の中に位置付ける。さらに，中国の家電メーカーハイアール－の事例に絞って，そのグローバルな展開，海外進出の戦略と課題，所有する優位と海外進出の要因などについて，具体的な分析を展開する。最後に，これまでの投資理論の検討を通じて，中国企業の海外進出の発展に影響を与える国内外の要因ならびに中国企業にとっての「優位」の所在を検討して，中国企業海外進出の今後について展望する。 第１ 章「「走出去」政策の提起経緯、背景と必要性」では，「走出去」政策の提起経緯、背景