条件文と意思決定.pptVIP

条件文理解、ショケ期待効用、信念関数 条件文と意思決定（１） 意思決定と言語理解、そして情報システムを媒介するキーワードは条件文(conditionals)だ。日常言語における条件文は「もし～であれば～である」とか「～のときは～だ」といった、前提部（条件部）ー結論部のペアの形で表現される。一方、If-Then文は情報技術者（そしてとくに論理学にその基礎を求める人工知能研究者）にとってはコンピュータによる推論と人間の理解をつなぐ掛け橋でもある。またWhat-If分析や感度分析は、ビジネス意思決定でもおなじみで、コンピュータと客観的データを使った最も基本的なシミュレーション技法である。しかしその理解は人間の自然な思考との微妙にくいちがう。 言語行為論の研究者Griceが論じたように、人間の豊かな表現解釈力によって、条件文の論理と直観的な解釈のギャップは、それによりかえってコミュニケーションの効率性を促進したり、言葉の不思議な彩を生み出すこともある。しかし通常はこのギャップによって、しばしば人間ユーザと論理に基づく情報システムとの間に、深刻なディスコミュニケーション（あるいはブレークダウン）を生じることはいうまでもない。 とくに反事実的条件文（Counterfactuals)あるいは仮想法（Subjunctives)と呼ばれるものは、「もし～だったなら、～だったろうに。」のように、典型的用法としては、実際には前提部分が偽となる事態が過去に生じており、かつその結果として結論部を否定する事態が生じている。したがって論理的な意味としては、前提が偽なので常に真である検証不要な妥当命題を表す。しかし、もちろんその直感的な意味は、その論理学への直訳とは異なり、「原因ー結果」のペアを表す。一方、結果を否定する事態では原因の不在が自然に推論できるので、通常の条件文で表現したときより、実際の人間が対偶命題を推理しやすい（誘導推論の項目を参照）。 条件文と意思決定（２） この特殊なタイプの条件文の役割は、Stalnaker、David Lewisら可能性世界意味論を開拓した分析哲学者たち、あるいはRichard Jefferyのようにベイズ的な確率論に基づく意思決定論の研究者ならによって古くから注目されていた。また彼らによって動的計画法にしたがう意思決定者が反事実的条件文の論法によって非決定性に直面するパズル（抜き打ち試験背理）やニューカム問題が指摘された。 1980年代にはゲーム理論家も同種の問題によって悩まされた（いわゆるゲーム理論の意思決定論的基礎）。その原因が合理性と共通知識のパラドックスに潜む既知の反事実的条件文を使った推論（理論構造としてはクラインの壷）だと彼らは気づき、またその一方でゲーム理論家はその非決定性を逆手に取った精緻な数理モデル（逐次交渉、フォーク定理、仮想遂行など）を操ることによって、その記述力と適用領域を格段に広げることができたのである。 経験科学におけるより重要な貢献としては、確率判断や不確実性下の選択を行うときのメンタルモデルは、数学的最適化（＝期待効用モデル）と系統的に異なることを見出した心理学者による研究があげられよう。これにより、故A.Tverskyと長年タッグを組んできたD.Kahnemanが2002年ノーベル経済学賞を受賞した。 ある意味では認知科学研究でこれまであまり表立って論じられてこなかったことが不思議だが、意思決定者の推論には、例えば「それをしなかったなら損失を避けられのに」とか「ああしたらもっと儲かっただろうに。」というように、後悔や反省、慰めや希望といった感情的要素と関係した表現で、自らの現実の達成状態と志向状態（より正確には、事前に意図された、あるいは推理された原因－結果のメンタルモデル）を同時に示す。ここにTverskyとKahnemanが着目し、その直観を数学的な言葉で洗練した。つまりプロスペクト理論を提唱したのである。 論理的思考の領域では、規範的回答から逸脱する各種アノマリーはWasonの４枚カード問題やJohnson-Lairdによる3段論法の研究など古くから知られるが、ここしばらくの間は根拠の怪しい社会的推論スキーマを検証するための実験研究の成果が目立った。認知科学者はようやく最近になってこの領域に再アタックしはじめている(Byrne,R.M.J.(2002). Mental models and counterfactual thoughts about what might have been. Trends in Cognitive Science 6(10): 426-431)。 隠れた前提 坂原は次のような例文を使って、隠れた前提のある文に対応する真理条件（と推論スキーマ）