SPA型企业の定义[精选].docVIP

第1章　問題の所在 近年，国内市場の国際化の進展により競争が激化し，日本では，小売業が不況業種の一つとして挙げられるようになり，企業は転落したり，消滅したりするという事態に直面している)。田村(2004)は企業数が無数で激しい競争を行っており，大手への集中度が低いこと，参入障壁が低く新規参入が絶えず行われているという産業特色により，小売業は収益性の低い産業であると指摘している)。また，小売業をPorterの脅威の分析に当てはめてみると，新規参入の脅威，競合の脅威，供給者の脅威，代替品の脅威，購入者の脅威のうち多くが当てはまり，産業魅力度が低い故に低収益であるということがいえる)。中でも，アパレル市場は依然として低迷し厳しい状況にあると報告されている(図1-1))。 図1-1　衣料品総小売市場の推移 クリストファーら(Christopher,M. et al,2004)によるとアパレル市場は，①短いライフサイクル，②移り気の激しさ，③予測可能性の低さ，④高い衝動買いという特性があり，消費者の需要に対応する伝統的な方法は予測に基づいており(forecast-based)，これは結果として在庫過剰と不足を招く危険性があると指摘している)。また，田村(2006)は，今日，価格志向と品質志向がともに強い消費者)がマス市場としての中核を形成していると指摘しており)，橋本(2005)は，小売業の課題を製品ライフサイクルの短縮化と，消費者が購入対象とする商品の選択において価格のみならず価値を重視する傾向にあることを指摘している)。つまり，今日消費者の購買基準がより一層厳しくなっているのである。よって，アパレル市場では，コスト削減行動，クオリティ向上行動，スピード上昇行動がさらに求められるようになったと考えられる。 こうした市場環境の中でも，SPA型企業は年次増収増益を確保し伸張している)。アパレル市場が全体的に低収益となっている中，SPA型企業はなぜ成長を遂げているのだろうか。その要因としては以下の二点が考えられる。第一に，高品質製品を低コストかつ短サイクルで開発しているためである)。市場ニーズの飽和化に伴い，製品ライフサイクルの短縮化が生じている今日において)，上記で示したような価格志向と品質志向をともに持つ消費者が存在しているため，この行動は増益を図る上で有効であると考えられる。第二に，企画から販売まで一貫して手がけるため，サプライチェーンの各機能をインテグラルにコントロールするための情報共有が達成できているためである。各機能間において，最大限の情報共有を行うことで，各機能の活動が同期化され，トータル在庫，トータル?リードタイムが最小化し)，その結果，顧客ニーズの変化への対応スピードが速まり，顧客満足の向上を図ることが可能であると考えられる)。よってクリストファーらの指摘にあるようなアパレル市場の特色にアジルに対応できている)といえる。以上のことから，アパレル市場において，高収益を上げているSPA型企業は，コスト削減行動，クオリティ向上行動，スピード上昇行動，情報共有を達成していると考えられる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 従来の小売業に関する先行研究では，高収益を上げている企業を個別に取り上げ，その戦略的特徴を明らかにしたものが多いが，多数のアパレル企業を対象に一般性を検証している実証研究は乏しい。そこで，本稿において我々はSPA型企業を含む多くのアパレル企業の行動に着目し，高収益を上げているSPA型企業行動の特徴を探索することを目的とする。 第2章　文献レビュー 本章では第1節において，SPA型企業に関する文献レビューを行い，本稿におけるSPA型企業の定義をし，成功事例から高収益を生むビジネスモデルについて検討する。続く第2節では，SPA型企業のコスト削減行動，クオリティ向上行動，スピード上昇行動，情報共有をサプライチェーン?マネジメント(以下，SCM)の観点から考察し，アパレル市場におけるこれらの行動の重要性についての考察を加える。 第1節　SPA型企業 第1項　SPA型企業の定義 SPAとは『specialty store retailer of private label apparel』の略で，『自社オリジナル企画ブランドによるアパレル製造直売専門店』というのが直訳である)。店頭から生産現場までを一貫して自社が管理するSPA型ビジネスモデルは，営業利益率の高さと，わが国のアパレル市場における複雑で非効率な流通チャネルや旧態の取引慣行を打破するモデルとして注目された。ここで，SPA型企業は特定の事業形態を指すのではなく，『消費(顧客)とサプライを最効率に結