児童相談所児童心理司の業務に関する一考察.pdfVIP

人間福祉学研究 第 ２巻第 １号 2009. 11 論 文 児童相談所児童心理司の業務に関する一考察 大島 剛 ＊1，山野 則子＊2 神戸親和女子大学 ＊1，大阪府立大学＊2 要約 全国 193ヶ所の児童相談所主管課長および 957 人の児童心理司に対して，児童心理司業務に関する質 問紙調査を行った．児童心理司は専門職採用であるが，５年未満のキャリアの浅い 20 代∼ 30 代の女性 の比率が大きいことが示された．障害相談が一番多く，虐待相談は求められているが，一番精神的負担 なものであった．昨今減ってきた育成相談をもっとやってみたい気持ちも示された．心理検査などのア セスメントは中心的に行うが，心理療法やカウンセリングなどへの関心が高く，臨床心理士としてのア イデンティティがある程度定着している可能性がある．しかし，児童相談所の地域差や位置付けによっ て児童心理司の業務に差が大きく，児童心理司が行う相談業務の質的な違いが個人的な感覚を超えて結 果に反映されているようである．児童心理司をいくつかのサブグループに分けて再度分析を行い，より 詳細な特徴を検討していく必要があろう． Key words ：児童相談所，児童心理司，相談業務，児童虐待，心理診断，心理療法 人間福祉学研究，2 (1)：19-33，2009 １．問題および目的 り方 にも依然 としてあいまいな部分が残 っている （「児相の心理臨床」編集発行委員会，1998）． 児童福祉法第 12 条によって，都道府県，政令指 厚生労働省は 「今後の児童家庭相談体制のあり 定都市等に設置されている児童相談所は，増え続 方 に関する研究会報告書」の中で，都道府県 （児 ける虐待を受けた子どもの処遇の中核的機関とし 童相談所等） における児童家庭相談機能の強化の て機能しているだけでなく，急激に認識が高まっ ために，地域の実情 に配慮 しつつも児童相談所の た発達障害や療育手帳に関わる判定事務などの障 必要な職員体制の確保 が必要であるとしている． 害相談，および低年齢化が指摘されている非行相 また，児童福祉司および児童心理司の専門職採用 談により，多忙を極めて疲弊している状況である． および継続的な研修の必要性が示され，配置比率 また法定業務の適切な運営や相談援助活動の円滑 3：2 を 目安にして 1：1 を 目指すよう提言 されて な実施のために，厚生労働省は児童相談所運営指 従来の判定業務に加 え， いる．特に児童心理司は， 針によって，全国の児童相談所に対して具体的な 一時保護中の子どもの心理療法，心理面からの援 指標 を示している（児童相談援助指針検討委員会， 助方針の策定，施設入所後のケアの評価などにも 2005）が，その業務の実態 には自治体による地域 積極的に関わることが求められていることから， 差が多く存在 している．そ して所内で働く児童福 配置の充実が必要とされている （厚生労働省雇用 祉司や児童心理司など それぞれの職種 の業務のあ 均等 ・児童家庭局，2006，website）