資料紹介 県令の交代をめぐる新聞記事～2代奈良原繁か.PDFVIP

資料紹介 県令の交代をめぐる新聞記事～２代奈良原繁から３代関口隆吉へ～ はじめに 平成21年度、静岡県立中央図書館は国民文化祭開催と初代県知事関口隆吉没後120年にあわせて、『関口隆 吉関係書簡集』を刊行した。関口隆吉は1884 （明治17）年9 月27 日に第3代静岡県令に就任し、1886年の地 方官官制公布により初代県知事となった。関口隆吉は江戸生まれだが、父隆船が佐倉村 （現御前崎市）の池宮 神社祠官佐倉氏出身であり、隆吉自身も維新後、静岡藩の公用人を務め、1870年には金谷開墾方頭取並として １） 佐倉村に近い月岡村（現菊川市）に居を構え、開墾事業にあたった 。このように本県に縁のある関口の県令 １）２） 就任は、当時の「地方の令は他貫の者を充当する」ルールから逸脱した異例な人事であったという 。以下 に関口が県令に就任した当時の新聞記事のいくつかを紹介する。これらの新聞については県立中央図書館、歴 史文化情報センターで閲覧できる。 社説「県令之交代」 1884年9 月28 日付の『函右日報』（以下、『函右』）、『静岡大務新聞』（以下、『大務』）では、昨日27 日をも ３） って2代県令奈良原繁 が工部大書記官に転じ、元老院議官だった関口が新県令に就任したと報じている。こ れ以前の当月の両紙には、奈良原が県令から転じていずれ日本鉄道会社社長に就任する風説があるという記事 ４） がみられる が、関口県令を予想する記事は確認できなかった。なお、9 月28 日付『大務』は奈良原がいった ん工部大書記官となってしばらくして日本鉄道会社社長になることに触れている。実際、奈良原は同年10月、 ５） 日本鉄道会社社長に就任した 。 9 月30 日付、10月1 日付『函右』に、社説「県令之交代」が掲載されている。在任約9 ヶ月の奈良原前県令 の功績を挙げながら、その転任は「愛惜悲嘆」「憂苦ノ情ニ堪ヘサルモノアリ」とし、その「憂苦」を償うもの として関口県令の就任に期待している。また、「按スルニ県令ノ昇進者ハ概ネ元老院議官ニ転スルヲ常トス、関 口君ノ如キ亦タ其一ニ居ル、然レドモ議官ヨリ出テヽ県令ニ任スル者ハ殆ント稀ナリ、否ナ余輩ノ記臆ニ依レ ハ絶ヘテ其例ナキカ如シ、今ヤ関口君ハ元老院議官ヨリ出テヽ県令ト為ル、其事稍ヤ疑フ可キニ似タリ」と述 べ、関口が山口県令から元老院議官となったことは一般的だが、元老院議官が県令に就任することは極めて異 例であり、そのような人事に違和感を抱いている。その上で社説は、本来、地方自治制度においての地方官は ６） 英米諸国にならって「人民ノ公選」で「府県内ノ人物を登庸」すべきであるとしている 。「関口隆吉君ハ…其 ノ静岡県ヲ思ヒ静岡県人ヲ愛スルノ情ニ至テハ稍ヤ他ニ越ユル所ノモノアラン…政府ノ特ニ君ヲ挙ケテ本県ニ 令タラシムル所以ノ意或ハ此ニアラセルナキ乎」、「君ノ就任ヲ以テ我カ県人ノ為メニ甚タ賀ス可キノ事」と述 べている。もちろん関口も官選であるが、静岡県に縁のある人物が県令になることを好意的に受けとめた社説 である。 新旧県令送迎会 人事発令時に上京中だった奈良原は、新県令関口と途中で合流してともに来静したことが『函右』『大務』両 紙からうかがえる。10月8 日付『大務』には両人が富士の沼川工事を巡見した記事がある。 新旧県令同席の送迎会が10月9 日と11 日に開催された記事も両紙にある。10月11 日付『函右』によれば、 9 日の送迎会は両替町の芙蓉楼で静岡市街の戸長、銀行、新聞関係者等を「首唱者」として開催され、180余名 の来会者があったという。11 日は永峯彌吉大書記官が主催して、＜表1＞のように5 会場で開かれ、316名の 来会者があり、新旧県令は會鶴楼（『函右』では會鶴亭）、求友亭、富士見亭、清泉楼を廻り、最後に芙蓉楼 （『函 右』では磯馴）に臨んだという。10月14 日～16 日付『函右』には、各会場ごとの出席者氏名が掲載されてい ７） る。1884年8 月発行の 『静岡県職員録』 と照