有机材料工学科.PDFVIP

有機材料工学科 Ⅰ．有機材料の内容と将来 有機材料とは，炭素を主要元素として，酸素，水素，窒素原子などで構成される物質の総称であり， たんぱく質・セルロースなどの天然物から，石油化学製品まで極めて幅広い物質を指している。我々 の生活空間にも，繊維，プラスチックス，ゴム，木材，紙，食品などの日常を支える基礎資材として はもちろんのこと，液晶，有機 EL などの情報材料，有機半導体などの電子材料，人工臓器などの医用 材料など，ナノテクノロジーをはじめとする今日の最先端技術を具現化する重要な材料として登場し てきている。まさに有機材料は，新素材開発の一つの柱として，我々に夢を運んでくる材料であると 言える。これは，分子レベルからの設計が可能であり，成形加工段階での制御幅が大きく，しかもい ろいろな形態や機能を自由に選択できるという利点を活用した結果である。 有機材料工学は，これらの材料の合成，物性の基礎科学から，製造過程の加工プロセスまでを取り 扱う広範囲な体系を持っている。アプローチの方法も多種多様で，とりわけ若い諸君の柔軟な発想や， エネルギッシュな研究が十二分に生かせる，若々しい分野である。 本学科では，材料開発で指導的な役割を担うべきマテリアル・エンジニアや，有機材料工学分野の 研究者・教育者の養成を目指し，材料科学，物理化学，有機化学，材料力学等の基礎科目群と，応用 との接点を探るエンジニアリングサイエンス科目群を両輪とする教育プログラムにより，系統的な基 礎および専門教育を推進している。 有機材料工学科の各研究室で推進されている研究内容は日進月歩であって，すべてを述べるのは困 難である。ここでは，諸君が近い将来挑戦するであろう研究テーマの一部を紹介するにとどめたい。 もちろん，既成概念にとらわれない，若い諸君の全く新しい発想を，我々は諸手をあげて歓迎する。 (1) 超強力有機材料 現在，芳香族ポリアミド繊維，超配向した汎用高分子繊維，炭素繊維などは， 重量当りでみた弾性率や破断強度は，金属繊維や無機繊維をはるかに凌いで いる。高強度，高弾性率，強じん性という三つの特徴を合わせ持つ高性能有 機繊維は，宇宙，航空などの先端分野のみならず，あらゆる産業で期待され る新素材の代表格である。 (2) 耐熱性有機材料 現在では300℃を越えて長時間使用できる有機材料も開発されつつある。こ れらの耐熱性有機材料は成形性に問題があり，その克服も重要な課題となっ ている。これができると，他の機械電気機器分野，特にエレクトロニクス分 野への寄与は計りしれない。 (3) 高機能性分離膜 半導体の製造に使われる超純水の生産，海水からの有効資源の回収などには 有機材料を素材とする膜の開発が不可避であり，液体中の物質を分離するだ けでなく，ガス分離膜，酸素富化膜，人工肺，燃料電池，バッテリーセパレー ターなど，有機材料分離膜の世界は一段とひろがりを見せている。 (4) 光学有機材料 有機材料はもともと透明な物が多く，高速通信用光ファイバー，光学レンズ などの情報材料としてなくてはならない材料である。テレビ，携帯電話など で使われる液晶ディスプレーも，有機材料の光学的性質を機能化した見本で ある。 (5) 電子有機材料 圧電・焦電性有機材料はすでに各種電子機器に組み込まれ，軽くてしなやか な有機材料で高い導電性をもつものや，有機超薄膜を使った太陽電池（光→ 電気エネルギー変換）が開発されつつある。超高密度集積回路を可能にする， －42－ 光感応有機材料の開発は，これから