复眼的中小企业论（上）-专修大学.PDF

ISSN 1345-0239 第34 巻 第1 号 商学研究所報 2002 年8 月 複眼的中小企業論（上） 黒 瀬 直 宏 (専修大学商学部教授) 専修大学商学研究所 目次 はじめに：中小企業論の体系と本稿の位置づけ １．二つの中小企業観 （１）問題型中小企業観 （２）積極型中小企業観 ２．複眼的中小企業観の必要性 （１）複眼的中小企業観の提起 （２）中小企業の本質規定に必要な３条件 （３）複雑なものを複雑なものとして捉える （４）複眼的中小企業観の先行者 ３．企業家的競争が中小企業発展の基盤 （１）商品生産と「販売の不確実性」 （２）無限の情報発見過程としての競争 （３）マルクス、ハイエク、新古典派 （４）企業活動の中核としての情報発見活動 （５）情報発見活動の鍵は場面情報 （６）企業家的競争 （７）中国温州市の例 （８）企業家的競争と中小企業の発展性：中小企業固有の有利性 （８）―１ 場面情報発見における中小企業固有の有利性 （８）―２ 中小企業の有利性の制約 （８）―３ 経営者能力の重要性 （９）企業家的競争と中小企業の発展性：中小企業の存立分野の拡大と経営体質の高度化 （９）－１ 中小企業の存立分野の拡大 （９）－２ 中小企業の経営体質の高度化 （９）―３ アメリカにおける歴史的事例 「複眼的中小企業理論 (下) 」目次(予定) ４．大企業体制と中小企業の問題性 (１) 資本の集積・集中と大企業体制の成立 (２) 寡占間競争：非企業家的競争 (３) 寡占大企業による中小企業支配と中小企業問題 ５．中小企業の両面性と多様性 (１) 中小企業の両面性：中小企業は「発展性と問題性の統一物」 (２) 中小企業の多様性 ６．複眼的中小企業理論による現在の中小企業の発展性・問題性の把握 1 はじめに：中小企業論の体系と本稿の位置づけ 最初に筆者の考える中小企業論の体系を述べ、本稿の位置づけを明らかにしたい。 筆者の中小企業研究の目的は「中小企業とは何か、中小企業はどうあるべきか」 を明らかにすることである。 戦後日本の中小企業は個々の企業としての浮き沈みはあったが、総体としては経 営体質を高度化し、企業数も拡大を続けてきた。しかし、1990年代に突入して以来 の中小企業の長期苦境に典型的に現れているように、中小企業が大企業体制下にあ って固有の不利や問題性を抱えていることも厳然たる事実である。「中小企業は発 展性と問題性の統一物」と言わざるをえない複雑な存在であり、そのような中小企 業の本質をまず明らかにするのが「中小企業とは何か」の研究である。 この研究には第１に経済学や経営学を応用して中小企業の本質を追究する理論研 究がある。中小企業は複雑な存在のためその本質追究には各種の学問成果を応用す る学際的研究を行う必要がある。同時に理論研究は中小企業の実態、特に歴史的推 移を踏まえたものでなくてはならい。そこで第２に中小企業の歴史的推移から中小 企業の複雑な本質にアプローチする歴史研究も必要となる。中小企業の本質追究の ために理論研究と歴史研究は並行的に進められ、相互に影響を与えあうべきもので ある。しかし、最終的には「中小企業とは何か」を概念化するのは理論研究におい てであり、歴史研究は理論の応用による中小企業史の解釈と位置付けられる。した がって、中小企業論体系の出発点に理論研究が、次に歴史研究が置かれる。 「中小企業とは何か」が明らかになった次は「中小企業はどうあるべきか」の研 究に進まなくてはならない。 これには第１に中小企業経営のあり方に関する研究がある。理論研究と歴史研究 で明らかになった中小企業の本質や歴史的発展段階を踏まえ、中小企業発展のため の経営課題や経営戦略を研究する。しかし、中小企業は国民経済上重要な役割を果 たしながら自助努力