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作用素代数と非可換幾何学における自然的概念および質的概念－グランジェの哲学に依拠して－仙台白百合女子大学原田雅樹2009年2月24日0．序物理学の基礎的概念は何かと問われた場合、いろいろな可能性があろうが、時間と空間と答えることができるかもしれない。近代物理学の誕生を真摯に受け止めながらその大哲学を生み出したLeibnizやKantの答えがそれであった。それでは、数学にとっての基礎概念は何であろうか。「集合」、または「圏」であると現代の多くの数学者や数学の哲学者は答えるであろう。しかし、もっと通常の概念に近いところで考えるならば、数学の基礎概念は、「数」と空間的「かたち」ともいえるのではなかろうか。これは、Kantの時間?空間論とも関わっている。カント哲学の中では、アプリオリな直観の形式たる時間において算術的数が構成され、空間において幾何学的空間が構成される。すなわち、基礎概念には、一方で、集合や圏といったような数学の厳密性を確保する概念があり、他方で、数や空間といったような日常的概念や数学の歴史的誕生にも関わるような概念がある。対極に位置するように見えるこの二種類の概念は、共に数学という人間の具体的活動に関わっている。このような問題に関して、フランスの哲学者Gilles-Gaston Grangerが、数と空間を数学における「自然的」概念として考え、それについて考察を加えている。「自然的」概念は、構文論的に公理化できない意味論的に豊穣な数学的概念に関わっている。それでは、数学にとって本質的だと思われる厳密性とは何であろうか。数学の厳密化とはとりもなおさず、数学の構文論的な側面の厳密化である。数学における厳密化を可能にする概念と自然的概念は、構文論的側面と意味論的側面という言葉で考えることができるかもしれないが、Grangerは、それを「操作と対象の双対性」という言葉で考えている。操作と対象という二つの側面の関係性を通して自然的概念が再構成されていくのである。幾何学的空間概念に関して言えば、それは「脱空間化」と「再空間化」の弁証法を通して構築されていく、ということをGrangerは書いている。もっと一般的には、次のような作業仮説がたてられるのではなかろうか。代数学と解析学という操作を顕在化し、概念を厳密化することを可能にする数学分野を媒介としながら、数論と幾何学という数学的対象を顕在化する数学的分野の中で、数や空間といった数学における自然的概念は再構成されていく。このことをGrangerの議論をふまえながら本論文の第1節で示していくことにする。第2節では、第1節で哲学的に論ぜられたことを、具体的な数学の中で見ていく。すなわち、20世紀に誕生した作用素代数という関数解析の一分野と、それを幾何学化した非可換幾何学という数学を概観しながら、数学的厳密化の動機を通して、いかにして数学における数や空間といった自然的基礎概念が再構築されていくかを見ていくことにする。なぜ、作用素代数とそれを幾何学化した非可換幾何学を例として取り上げたかというと、一つ目には、それが、一方で数学の厳密化のために生み出された「集合」、「濃度」、「次元」といった概念に依存する一方で、大胆な新しい概念の導入が数多くみられるからである。二つ目には、「操作」を可能にする作用素が創造的に導入されることで、それが新たな数学的「対象」を産出したり、その「対象」の意味を拡大したりしていることがはっきりと見えるからである。三つ目には、作用素代数の構築から、非可換幾何学の構築への動きは、Grangerのいう「脱空間化」から「再空間化」へという動きに対応し、その動きの中で、「数」や「空間」といった基礎概念を大胆に拡大、再構成しているように思われるからである。1．Grangerにおける数学の諸概念間の干渉　本論文の第1節では、フランスの哲学者Grangerの数学概念の哲学的分析を援用しながら、数学の諸概念がいかにして干渉し合い、新しい概念を生み出していくかを考察していく。彼の哲学において基本的な概念となる「作用と対象の双対性」という概念が、数学における「自然的」概念や数学の厳密化とどう関わっているかを明確にしながら、性格の異なる様々な分野、すなわち数論、幾何学、解析学、代数学にわたる数学の諸概念の相互の干渉が、どのように新たな数学概念の構成に関わっているかを考えていく。Grangerは、数概念と空間概念を数学における代表的な自然的概念としているが、なぜそう考えるかという理由について述べてはいない。そこで、Grangerのテキストに入る前に、このことについて一言述べておこう。数学における自然概念をこの二つの概念とするのは絶対ではないであろうし、他にも考えられるかもしれない。しかし、この二