不真正不作为犯.PDF

第 2 章 不真正不作為犯 講師／加藤 喬 講師／加藤 喬 第2章 不真正不作為犯 １．不 作 為 不作為とは、期待された作為をしないことを意味し，期待された作為を行わなかっ たから結果が発生したといえる場合には，実行行為は不作為と捉えるべきである。 《作為と不作為の区別》 不作為とは，何もしないことを意味せず，「期待された作為をしないこと」を意味す る。そのため，期待された作為をしないことと，何か別のことをすることとは両立し うるのである。実行行為を作為・不作為のいずれで捉えるのかの判断においては、な ぜ結果が発生したのか（結果の発生の原因が作為と不作為のいずれにあるか）が問題 とされる （山口総論76～77 頁）。 例えば，病室で夫V の看病をしていた妻X が、夫V の容体に異常が生じていたに もかかわらず、巡回に来た看護師に対し夫V の容体に変化はない旨の虚言を述べ、看 護師による容体確認等を妨げたという事案（平成22 年新司法試験）においては、妻 X が看護師に対して虚言を述べたという積極的な行為は、夫V の容体の異変を報告す る（作為義務の内容）という期待された作為を行わないという不作為の一環をなすも のにすぎないという見方もできるのである。 《いかなる時点における不作為を実行行為と捉えるべきか》 故意及び因果関係との関係から，〈故意を生じた時点〉から〈結果回避可能性のあっ た時点〉までの間における不作為を実行行為と捉えるべきである。 まず、①故意は、実行行為時に備わっていることを要するから，実行行為は，故意 を生じた時点若しくはそれ以降の不作為に求めなければならない（平成22 年新司法 試験の出題の趣旨でも、故意の成立時期を意識する必要がある旨が指摘されている。）。 次に、②結果回避可能性がなければ因果関係が認められないので，因果関係が認め られる程度の結果回避可能性（＝期待された作為がなされていたならば高度の蓋然性 をもって結果が回避されたといえる程度の結果回避可能性）がある時点までにおける 不作為を実行行為と捉える必要がある。 ２．不作為の実行行為性 【論証】不真正不作為犯の実行行為性 甲の不作為に殺人罪の実行行為性は認められるか。 ↓ 不真正不作為犯の成立には、罪刑法定主義との関係から、不作為が作為と同視でき ることが必要である。 具体的には、①法的作為義務及び②作為の可能性・容易性が必要である。 ※1．不真正不作為犯の実行行為性の論証におけるポイントは、不作為によっても構成要件的結果惹起が可能で あり、不作為も実行行為となり得るということを前提として、罪刑法定主義（あるいは、構成要件の自由保障 8 講師／加藤 喬 機能）との関係で、不真正不作為犯の成立範囲についていかなる基準で絞り込みをかけるのかということにあ る。したがって、「不作為によっても構成要件的結果の惹起が可能であるから、不作為も実行行為たり得る」 という論述は不要である。 ※2．厳密には、同視可能性の有無は、「作為の容易性と作為義務の強さとの相関関係により決せられるべきであ ろう」（刑法総論講義案‐三訂補訂版73 頁）が、司法試験との関係では、そこまで深入りしなくて良い。 ※3．作為の義務の発生時期・内容も具体的に認定する（平成22 年新司法試験出題の趣旨・採点実感）。これを やらないと、作為義務違反、さらには実行の着手時期・因果関係・故意の判断ができない。 また、平成22 年新司法試験出題の趣旨では、「殺意を認定する場合には、その成立時期についても留意す る必要がある。なぜならば、殺人罪が成立するには、殺意が肯定されることに加え、作為義務の発生時期、 救命可能性が認められる時期（午後 2 時20 分まで）との関係も踏まえ、これらがすべて満たされる必要が あるからである。」と指摘されている。採点実感では、優れた答案として、「作為義務、救命可能性及び故意 について、それぞれの時間的先後関係を意識して検討している答案」が挙げられている。 ※4．不真正不作為犯の実行行為性と、不作為が実行行