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歯科衛生士のための 衛生行政 社会福祉 社会保険 第8版 末髙武彦 1章 社会保障制度 要点 今日の保健医療，社会保険，社会福祉に関する行政は，社会保障制度に基づ いて行われる．社会保障制度の体系を知り，社会保障制度の考え方と私たちの生活と のつながりについて理解する． Ⅰ. わが国の社会保障制度 1．社会保障の前史 　社会保障という言葉は，アメリカにおけるSocial…Security…Act（1935年）ではじめて用いた． 社会保障を定義し体系化したのはイギリスにおける1942年のBeveridge報告であり，その後 「ゆりかごから墓場まで」といわれる制度を整備した．今日用いられる社会保障制度は第二次世 界大戦以後各国に波及した．わが国では昭和21（1946）年に公布された憲法第25条において， 国民が健康で文化的な生活を営むため，国は社会福祉，社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に 努めると定め，社会保障の用語が公式に登場した． 　社会保障制度の源流は，労働者間の相互扶助と，貧困者に対する救済にある．前者は，産業革 命以後における熟練労働者の団体である，ドイツの共済組合あるいはイギリスの友愛組合でみら れる．組合では，組合員の組合費をもとに相互扶助の精神によって，失業，病気などに対する救 済制度を発足した．これらが，今日の社会保険の源流である． 　後者の始まりとして代表的なのが，1601年のエリザベス救貧法である．救貧法では，貧困者 に仕事や仕事に必要な材料（木綿糸など）を与え，労働不能者に生活の救済を行った．このよう な動きが，今日の社会福祉の源流である． じゅっきゅう き そく 　わが国においても，明治7（1874）年に恤救規則を定め，隣人相互の扶助で救われない者に対 して恩恵的な給付を行った．また，明治38（1905）年には鐘紡と八幡製鉄所が共済組合を設立 し，企業内の共済制度が発足した．国の制度では健康保険法を大正11（1922）年に定めたのが 始まりである．なお，この制度は，関東大震災が翌年発生したため昭和2（1927）年から始まっ た． 2．今日の社会保障 　わが国の社会保障制度は，さきの憲法第25条に示す国の責任を実現するため，昭和23（1948） 年に社会保障制度審議会を設け，昭和25年に社会保障制度に関する勧告を出した．ここでは， 社会保障制度の定義を示し，その分野を①社会保険，②公的扶助，③公衆衛生及び医療，④社会 福祉の4分野に大別している．この当時の社会保障の概念を示すと以下のようになる（p.4）． 1 2章 衛生行政 要点 社会保障の領域である地域保健，社会保険，社会福祉を学ぶうえで，基礎と なるこれらの領域の行政制度（ここでは「衛生行政」と呼ぶ）について現在の組織や 担う関係者について理解する． Ⅰ.衛生行政の目的 1．行政とは 　中世において一国を支配する君主は，人民に対して絶大な権力をもっていた．絶対王政のフラ ンスでこのような姿をみていたモンテスキューは，『法の精神』（1748年）で，権力の集中によっ て起こる権力の濫用を防止し，人権を守るためには，立法，司法，行政の三権を分離し，それぞ れを立法府（国会），司法府（裁判所），行政府（内閣）に分け，相互のバランスを保つことが必 要であると説いた．この権力分立制は，その後世界の多くの国に普及し，わが国でも明治以来採 用され，日本国憲法でも三権の分立を定めている． 立　法 ：国　会　公益実現のための法律を作る 司　法 ：裁判所　憲法・法律に基づいて正義を判断する 行　政 ：内　閣　憲法・法律に基づいて公益を実現する 　三権のうち行政の定義をみると，「行政とは，法のもとで，公益の実現をめざして，個人では できない公の仕事を国家や公共団体が統一性をもって継続的に行うことである」といえる．近代 以前においては，行政は，封建領主や専制君主が支配し，ともすると独断的な統治を