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農業農村工学会誌第 81 巻第 4 号 報文・技術リポート内容紹介 小特集 農作物の高温障害対策への農業用水の効率的な利用 特集の趣旨 水稲生育期間の高温化による米の品質低下が顕著になったことを受け，農林水産省内に 「水稲高温対策連絡会議」が設置され，情 報収集や対策技術の検討などが開始されてか ら約 10 年が経過 しました。その後，品種や耕種的対策技術の研究開発は進んでいます が，各地で高温障害とみられる米の品質低下の報告は依然続いています。また，水稲以外の作物や野菜，果実でも高温に起因する品 質の劣化が問題となっています。 このようなかで，農作物への高温の影響を緩和する方法として，灌漑用水を利用する技術が広く採 り入れられています。そこで， 本小特集では，水管理や適切な灌水により農作物の高温による品質低下を抑制 している事例やその効果発現に至る科学的メカニズム の検証，さらに地域で広く対策を講 じるための用水供給などに関する課題についての報文を紹介 します。 1. 猛暑に対応した水稲作付け体系が 3. 神流川沿岸地区における水稲高温障害に対する 用水需要変動に及ぼす影響 農業用水管理 坂田 賢・友正 達美・内村 求 志野 尚司 ・柄澤 昭司 ・田澤 裕之 ・山本 和雄 2010 年は記録的猛暑となりイネの高温登熟障害が広範囲で 地球温暖化に起因する気候変動の影響が，さまざまな分野で 発生した。翌年には高温に対応した作付け体系に変更した営農 現れている。その影響の 1 つとして，水稲の高温障害がある。 者が多いと考えられたため，検査数量の多い 10 県の営農者を 登熟期に猛暑による異常高温にさらされると白未熟粒が発生， 対象にアンケート調査を実施し，用水需要への影響を考察し 米の検査等 が低下し，価格 も下落する被害が発生している。 た。作付け体系のうち田植え時期の変更が最も多く，冷涼な地 このような高温障害に対する水稲の適応技術 として，移植時期 域で遅植え，温暖な地域で早植えが多くなる傾向がみられた。 の繰下げ，肥培管理の徹底のほか適正な水管理の徹底などで対 ただし，田植え時期が出穂日に与える影響は地域で異なり，既 処 してきた。本報では，埼玉県北西部に展開 している神流川沿 存の作物モデルにより高緯度の地域ほど天候の影響が大きく， 岸農業水利事業の受益地において，平成 22 年夏期に発生した 灌漑期間が長くなる可能性を示した。また，高温時には取水量 水稲の高温障害とその対応策，特に水管理にかかる事項につい を減らすよりも増やす営農者が多くなった。すなわち，用水需 て述べる。 要は高温年にはピークが高くなり，平年や冷夏年には期間が長 （水土の知 81-4，pp.11〜14，2013） くなると考えられる。 高温障害，気象環境，白未熟粒，用水管理，水田灌漑，水 （水土の知 81-4，pp.3〜6，2013） 利用計画，水利権 高温登熟障害，外観品質，1 等米比率，営農方法，田植期， 用水需要，水利権 2. 夏期の飽水管理が土壌環境と玄米品質に及ぼす影響 4. 「山田錦」における高温障害抑制のための掛流し灌漑試験 藤原 洋一・鳥山 和伸・藤井 秀人 竹下 伸一・池上 勝 ・平川嘉一郎 ・土田 利一 水稲の高温登熟障害対策として，湛水をせずに土壌を常に湿 兵庫県の特産である酒米 「山田錦」は，1998（平成 10）年以 潤状態に保つ水管理（飽水管理）が推奨される場合があるが， 降，出穂，成熟期の早生化が顕著になり，米の充実不足による 飽