子どもの医療費助成通院健康.PDFVIP

413 投稿（研究ノート） 子どもの医療費助成・通院・健康 別 所 俊一郎 康状態の正の相関を弱め，健康状態の向上に寄与 Ⅰ はじめに する効果をもつことを示している。Medicaidの 対象となるほど低所得ではないが民間保険を購入 日本の地方政府はさまざまな業務を行っている。 する経済的余地の少ない世帯の子どもを対象とす なかでも所得再分配の執行において地方政府の果 nsHealthInsurance るSCHIP （StateChildre たす役割は大きいし，地方単独事業として所得再 Program）も医療サービスへのアクセス改善に 分配的な政策を施行している。医療分野において 寄与してきた〔Davis2005〕。 も地方単独事業は存在する。子育て世帯の経済的 本稿の目的は，乳幼児医療費助成制度の地域的 負担の軽減と子どもの保健や福祉の充実を目的と な差異を用い，個票データを使って，日本におけ し，公的医療保険の自己負担分を助成する乳幼児 るこの助成が子どもの保健や福祉の充実，具体的 医療費助成制度1） はその一例である。本稿ではこ には医療サービス消費と健康状態に与える効果を の助成制度が子どもの通院行動と健康に与える効 検討することにある。 果を検証する。 本稿の貢献は2つある。ひとつは，医療サービ 乳幼児医療費助成は， 1961年に岩手県沢内村 ス消費への医療費助成の影響を個票を用いて推定 （現・西和賀村）に導入されて以来，90年代半ば したことである。すでに多田〔2005〕が受療率 にはすべての都道府県で実施され〔西川・山崎 を用いて，岩本〔2010〕が医療費を用いて乳幼 2010〕，多くの地域で未就学児までが助成の対象 児医療費助成制度の医療サービス消費へのプラス となっている。にもかかわらず，多田〔2005〕， の効果を検出しているが，いずれも都道府県ごと 岩本〔2010〕を数少ない例外として，その効果 の集計データを用いており，それぞれの子どもの について定量的な分析は多くない。本稿はこのギャッ 社会経済的状況を十分に反映できてはいない。本 プを埋めようとするものである。合衆国では，子 稿では子どもの属する世帯の属性を制御した推定 どもの社会経済的地位と健康状態に正の相関が見 を行っている。いまひとつの貢献は，子どもの健 られる〔Caseetal.2002，CurrieandStabile 康状態への効果を推定している点である。医療費 2003，CondliffeandLink 2008〕ことから， 助成が医療サービスへのアクセスを改善し，早期 低所得者向けのメディケイド（Medicaid）の効 の治療等を通じて子どもの健康状態を改善してい eand Gruber 果が研究されてきた〔e.g.,Curri れば，医療サービス消費は必ずしも増加しないか 1996，DafnyandGruber2005〕。Buch