子ども期の貧困が成人後の生活困難(デプリベーション) に与る影響の分析.PDFVIP

354 子ども期の貧困が成人後の生活困難（デ プ リベーション）に 与える影響の分析 阿 部 彩 Ginis＆ Groves2005など），日本においてもい Ⅰ はじめに くつかの研究がそれを支持する分析結果を出し ている（阿部2007，大石2007，Oshio,Sano＆ 長い間，日本における貧困はメディアや政治 Kobayashi2010,Abe2010）。また，ホームレ の関心から遠い位置にあり，ましてや，日本の スの人々など極端な生活困難を抱える人々の中 子どもの貧困はその存在すら認められていなかっ では，子ども期の貧困が示唆されるデータが存 た。しかしながら，日本の子どもの相対的貧困 在する（岩田2007）。 率は 14％であり（OECD2008，厚生労働省2009 しかしながら，子ども期の貧困から成人期の など），他のOECD諸国に比べても決して低いレ 貧困までの，移行過程（ ransiion）について ベルではない。近年になって，ようやく，子ど は謎の部分が多い。まず，第一の疑問は，貧困 もの貧困が日本の社会問題として注目を集めつ の継続性である。子ども期に貧困であった個人 つあり，日本の子どもの貧困に関する研究や統 は，生涯，貧困の生活を継続しているのか，そ 計も蓄積されつつある（山野2008，阿部2008， れとも，貧困のリスクは，人の一生の中で変化 子どもの貧困白書編集委員会2009，など）。 するのか。貧困研究の父親ともいえるB.S.Rown- 子ども期の貧困が，子どものさまざまなウェ ree （1871-1954）は，貧困のリスクは人生の三 ル・ビーイングと密接な関係があることは多く 時点（子ども期，育児期，引退期）に顕著に表 のデータで確認できる。例えば，子どもの学力， れることを，既に1世紀以上も前に指摘している 健康状況，学校での適応，不登校，児童虐待， が（ライフサイクル・モデル），ラウントリーが 非行，親との時間は，どれも，貧困層の子ども 行った有名なヨーク市調査の時代から1世紀の時 の方がそうでない子どもに比べ悪い状況にある がたち公的年金制度や各種の育児支援サービス （山野2008，阿部2008，子どもの貧困白書編集委 （児童手当や母親の就労を可能 とする保育制度な 員会2009）。こういった子ども自身が現在進行形 ど）が拡充 されてきた現代日本においても，こ として面しているさまざまな不利やウェル・ビー のモデルは当てはまるのであ ろ うか。また，ラ イングの喪失はそれ自体が大きな問題であるも ウントリーは個人の一生を追 って貧困の経験 を のの，子ども期の貧困がより大きな社会全体の 観察 したわ けではないため，子ども期に貧困で 貧困問題と繋がるのは，それが，子どもが成長 あった個人がその後の人生の中で，どのような した後にも持続する影響を及ぼすからである。 「貧困からの脱出」「再脱落」といったライフコー 子ども期の貧困と，成人後の貧困との関連は， スを辿 るのかの知見 を得 たわ けではない。ライ パネル・データが豊富である海外の貧困研究で