幼稚園教育実習に関する一考察.PDFVIP

〔東京家政大学研究紀要　第21集（1），P・37～45，1981〕 幼稚園教育実習に関する一考察 後　藤　嘉余子 （昭和55年9月30日受理） Kayoko　GOTO （Received　September　30，1980） 形で実習の評価が規準とされることが多々みられる．保 1　はじめに 育現場での実習は，他の実験実習教科に比して保育老養 　保育の場で幼児との直接的接触をもつ保育者は心理的 成課程におけるもっとも現場的体験的学習である．保育 環境を構成する重要な要因として重視され，保育の本質 者形成という観点に立てぽ，それは実習する学生にとっ から或いは実際的側面からその理想像の提示がなされて ても重要な意味をもつことになり，従って実習の評価は 成果としての重みづけがなされ，適性等を追究する場合 いる（山下1），Symonds2＞，他）．この理想像をめぐり保 育者の資質論が展開され，同時に必要な資質を具えてい の一つの規準に汎用されるのである．しかしながら，幼 るかどうかという所謂適性に関する問題が保育者養成の 稚園における教育実習には多様な保育理念，異なった経 不可欠な課題となっている． 験，種々の指導等複雑な側面がうかがわれ，視点の異な 　保育者の資質，適性に関するこれまでの実証的研究を る評価を把握する上での問題が論じられている．実習へ 養成との関連で概観すると，人格と職業との関係から保 の意欲，実習態度，終了後の意識の変容を考えるとき， 育学生の人格特性と他専攻学生のそれとを比較して保育 他老評価と併せて学生自身の自己評価を通した検討を加 者として必要な資質を明らかにし，更に，養成期間内に えることも必要であろう． みられる変化について論及するという方向と　（白佐3）・4）， 　近年多岐に亘る実習研究の中で，学生の意識，態度に 光岡ら5），他），保育者に必要と考えられる多数の事項に 及ぼす実習の影響を効果として捉えようとする方向がみ ついて保育学生等に指摘された必要度から資質を抽出し られるが，実習経験の多様性に考慮を払い，その中に共 （最近は因子分析を用いた検討もなされている6）），教育 通して獲得するもののあることを推察し，実習の効果測 の過程における指摘事項の相違を意識の変容として捉え 定に関して客観的把握を試みているものに角尾の研究が ようとする方向等が見受けられる．菱谷らは，保育者の ある11）。また，立川は学生自身の変容をもとに，実習時 資質がどのような重みをもって教育実習評価の対象とな の困惑を保育者志望の度合と実習経験との関連で考察し， っているかを明らかにするため，実習評価と意識調査， 実習後の指導のあり方に言及している12）・13）． 性格検査等の関連について調べ，評価と意識調査との間 　このような実習状況を踏まえた追究がなされている点 に有意性を見出している7）．また．適性という観点から にも着目して，本稿では実習による学生の意識の変容を は，久保らが保育専攻生を対象に教師による適性評価， 手がかりに，実習効果という観点から保育者としての自 実習評価，性格，運動能力等相互の関係を検討している 己評価，保育者の必要な条件に指摘された事柄，実習に 8）・9）・10）が，保育者という職業にとって必要な資質である よる習得事項について分析を行ない，同時に保育現場か といわれる身体的能力を取り上げている