酸性雨の全体像を描く.docVIP

酸性雨の全体像を描く １．はじめに ここでは酸性雨の全体像を簡単に説明したい?権威ある辞書や解説書には?酸性の雨?、?水素イオン濃度指数(pH)が5.6以下の雨?とある。このpH(ピーエイチ)とは酸性の強さの指標であり?pHが低いほど酸性が強く、硝酸や硫酸などが濃いことになる。雨のpHが低くなること自体大変なことである。酸性雨をpHの問題にすりかえてはならない。ここでは、pHではあらわされないことがあることを中心にみていこう。 ２．酸性雨の基本過程 酸性雨は石油や石炭を燃焼することから始まる(図１参照)。このとき大気汚染物質である二酸化硫黄や窒素酸化物が放出される。これらの物質は酸?そのものではなく、いわば酸の原料となるものである。原料である二酸化硫黄や窒素酸化物は光化学反応などによって、大気中で硫酸や硝酸に変わる。これらの化学反応は雲水滴の外で起こるが?硫酸の生成は雲水滴の中でも進行する?大気中でのこれらの酸の濃度が増加し?大気は酸性化する。これらの酸は大気中を風に乗って輸送されながら数日間滞留するが?最終的には地上に沈着してしまう??一度空中に上がったものは、地上にもどって来なければならない(What goes up must come down.)?(Schwartz)という表現はこのことをいっている。このとき、発生源から500kmから2,000km程度にまで輸送されてから沈着する?この距離から大陸規模の大気汚染と呼ばれることもある理由である?地上に沈着した酸は?生活環境を含む生態系を酸性化するのである?森林?土壌?陸水、文化財をはじめとする器物?建造物などは種々の影響を受ける。これが、現象としての酸性雨の全体像である。 沈着過程 　大気中に放出された二酸化硫黄や窒素酸化物は、酸となって地上に戻る。沈着の過程を見よう。大気中で硫酸や硝酸はそれぞれ微粒子やガスの形で存在しているが?これらの酸はいずれも二つの経路で地上に沈着する(図1参照)。 一つは雨や雪、霧などに溶け込んだ状態で地上に沈着する湿性沈着で?いわゆる酸性雨として知られている?大気中の酸が雨滴に溶け込むと雨滴は酸性化する。これをpHで表すとpH4 - 5、あるいはそれ以下となって?強い酸性を示すことがある?これが酸性雨という名の起こりでもある? もう一つは、酸が微粒子やガスの形のまま、風に乗って地上に到達して、植物の葉や建造物など種々の表面に付着する乾性沈着である。この沈着は降っても照っても進行し?いわば?目に見えない酸性雨?といえよう。この乾性沈着による沈着量を実際に測定するいい方法がなく、正確に見積もるのは大変難しい?しかし、理論的に計算してみると?湿性沈着と同じ程度の酸が乾性沈着している?いいかえると、地上に沈着する酸の半分は?雨によるものではない?この乾性沈着という経路は、酸性雨という言葉から想像しにくいだけに、その存在をはっきりと頭に入れておく必要がある? pHだけでは表せない問題 　ここで、雨のpHだけでは表せない問題をあげよう。酸性雨の影響を考えるとき?濃度と沈着量の両方の視点が必要である。 　濃度は酸の濃さであり、pHは濃度に対応する量である?沈着量とはその酸が地上に負荷された量である。湿性沈着の沈着量は、酸の濃度と、そのときの降水量を掛けあわせて求まる。pHが高く、酸の濃度が低い場合でも降水量が多いと?酸の沈着量は少なくはない?わが国の降水量は欧米と比べるとかなり多いので?濃度だけでなく、湿性沈着量も重要なポイントである。 　またpHが低く?酸の濃度が高い雨滴でも、大気中のアンモニアガスなどのアルカリが溶け込むと、いわゆる酸とアルカリによる中和によって、酸の濃度は減少する。するとpHは上昇し?非常に薄い酸のpHと同じレベルになることさえある?つまり、ほとんど酸性化していないようなpHの雨でも、中和が起こる前のpHはかなり低かった可能性がある?雨のpHを、中和が全くなかったと仮定したときのpHや、中和前の硫酸や硝酸の濃度と併せて考えると?雨の化学的特徴がくっきりと浮かび上がらせることができる? 沈着した後のアンモニア 　沈着した後のアンモニアにも注意しなければならない。大気中では酸を中和し酸性雨を和らげた、いわば善玉の、アンモニアは、沈着すると土壌中の微生物によって酸に変わるのである?：NH4+ + 2O2 →　NO3- + H2O + 2H+。これはpHや酸性雨の言葉からは予想できない、ややこしい現象である。これも雨のpHだけからでは現れてこない? 　メディアではpHの値が異常に重視されている。酸性雨問題はpHの問題だけでないことをこの機会に理解していただきたい。 環境への影響 　環境への影響についても簡単に触れてみよう