第2讲 考古学の成果.doc

第1講 先史時代と中国神話 4月18日 高校教科書の主要記述 河姆渡遺跡　北京原人　周口店　彩陶　仰韶文化　黒陶　竜山文化 （１）　近年の考古学の成果 　現在の高校世界史教科書において、中国の先史文化に関しては、上記のように、黄河流域の文化に関する叙述が大半で、長江流域への言及は、古い稲作が確認された遺跡として著名になった、河姆渡遺跡が取り上げられる程度である。 　しかしながら、近年の発掘によって、湖南省道県の玉蟾岩遺跡（写真①）から、約1万2000年以上前の稲籾（写真②）が出土した。。この遺跡自体は、写真③のような洞窟で、1万5000年以上前からの住居址であることは確実である。この稲籾を栽培種とみることについて、日本の研究者には疑問視する立場もあるが、湖南省考古研究所の袁家栄所長は、栽培稲のものと発表している。仮にこれが、野生種を採集したものであったにもせよ、写真④のような土器も出土したこの遺跡が、一般に考えられてきたメソポタミにおける定住農耕の開始期よりふるく、一定の文化様式を備えた人類生活の場であったことは確実で、世界の農業史?生活史を、中国での発掘成果は書き換えようとしている。 　従来、日本の教科書に記されている考古学の成果は、19世紀以来、西欧人の 研究者によって紹介されたものが多かった。 1922年、スウェーデンの地質学者アンダースンのグル－プ（中国人考古学者斐文中も参加していた）が、北京郊外?周口店から北京原人（46～23万年bp）の頭骨を発見したことが、世界の考古学に及ぼした影響については、知っている人も多いだろうが、その後、同地点の上層からは、新人に属する周口店上洞人が発見された。また、北京原人以前の旧人である、元謀人（170万年以前）、藍田人（75～65万年bp）なども、解放後、発見されている。また、アンダースンら欧米の学者が、新石器時代の陶器を発見し、半坡遺跡に代表される仰韶文化の彩陶や、その後に山東で発展した竜山文化の黒陶など、文化類型を整理したのは、その典型である。ただし、このうち、竜山文化については、その発見の地である、山東省の城子崖について、これが、人工丘陵だ、との説も90年代以降提示され、北京原人なだ、丘陵中腹の洞窟に暮らしていた人類が、何故、大平原での生活を始めるようになったかについては、これからの検討課題となっている。 　第2次大戦後、およそ1万年くらい前からの新石器遺跡だけでも、1万箇所を超える発見があり、特に近年、様々な遺跡が発掘されて、文化類型についても整理が進んだ。約5000年前からの仰韶文化に先行して、黄河中流域では、北の磁山文化や南の斐李崗文化があり、従来、仰韶文化に続けて説明されていた山東などの龍山文化が広がった地域では、これに先行して大汶口文化があり、さらにそれに先行する北辛文化などのあったことが確認されてきている。 　また、長江流域や雲南省?四川省等については、解放前の枠組みでは、到底包括しきれない、多様な文化が存在したことを示す発見が相次いだ。河姆渡遺跡（約８0０0年bｐ）は、水稲作の存在を暗示する稲藁の堆積や牛肩甲骨利用の農具の出土などで注目を浴びたし、同時期の馬家浜文化に属する草鞋山遺跡（約6000年bp）からは、プラントオパール（イネ科植物の細胞に含まれる珪素が、植物の死後、土壌中に残ったもの。品種などにより、形状が異なる）分析によって、世界最古の水田址が確認されている。下って、5300～4000年bp頃の良渚文化期は、玉器の多量な出土が特徴で、政治?政権の発生を窺わせる。 文献史料との比較検討が問題となる時代の遺跡では、河南省洛陽市の東方約25キロにある、偃師県二里頭遺跡や、山西省の二里崗文化の諸遺跡を、伝説の夏王朝の跡と見る説も有力である（本年度の参考文献とした『資料に見る最新中国史』の岡村論文を参照されたい）。これらの出土物を分類することで、近年では、新石器時代について、地域毎に一定の文化的纏まりが見られると主張する説も盛んになってきている。 なかでも、洛陽盆地周辺では、新石器時代のうち、竜山文化期から二里頭文化期等に属する諸遺跡において、稲の植物遺体が大量に発見されていて、既に寒冷期に向かう傾向にあったとはいえ、現在に比べて温暖であった華北で、古くから稲作が行われていたことガ注目されており、現在でもまだ根強く残る19世紀から20世紀前半の西欧人による現在に気候を基準とした中国地理区分は、古代社会に適用しえないことが明らかになりつつある。 この意味では、今も一部の教科書に記載が残る「肥沃な黄土」といった叙述も誤りであって、「黄土高原」という地理的呼称の元になった華北に広く見られる黄色の細かい土は、それ自体では決して肥沃でなく、当然ながら、そこに森林や草原が