6地球物質循環-MeteorologyResearchGroup..docVIP

第９章　化学動力学 我々は以下の章で，成層圏オゾンの存在量、大気の酸化力，スモッグ，及び酸性雨を支配する様々な化学反応の機構を示す。最初に，この章では化学動力学のいくつかの基本的な概念を概説する。 9.1気相反応の反応速度表現式 9.1.1　二体反応 二体反応においては，A, B二つの反応物が衝突してC, D二つの生成物が作られる。この衝突では活性複合体AB*が生成され，これは元の反応物A, B或いは生成物C, Dのどちらかにに速やかに分解する。この反応は （R1） （9.1） と計算される。ここで，kはこの反応の速度定数である。この表現において，[ ]で表された濃度は，その積[A][B]が衝突頻度に比例するように，数密度の単位で表される。この反応の速度は，衝突頻度と，活性複合体が最後にどうなるかということに依存する。kは通常cm3 molecule–1 s–1の単位で与えられ，この場合[A]と[B] の単位としてはmolecules cm–3が用いられる。 　二体反応の特別な場合は自己反応であり， （R2） （9.2） となる。 9.1.2　三体反応 三体反応は，A, B二つの成分が反応し一つの生成成分ABができる反応である。この反応では，励起された生成物AB*を衝突によって安定化させる第三体Mが必要となる： （R3） （R4） （R5） （R6） （R7） （9.3） （9.4） （9.5） （9.6） （9.7）? = k3は高圧限界速度定数と呼ばれる。(9.5)をk0とk?を用いて書き直すと，二つの限界の意味が明らかになる： （9.8）–2 s–1で，高圧限界はcm3 molecule–1 s–1である）、その場合、その限界が成り立条件が満たされていると仮定してよい。 ９．２　逆反応と化学平衡 反応は可逆的である。もしある反応を次のように書けば （R8） （R9） （R10） （9.9） （9.10） （R11） （9.11）–1)は，光解離速度定数，あるいは，光解離周波数である。 　ここで，厚さdzで水平方向に単位面積を持つ空気の薄い層を考える。この層には[X]dz個の分子Xが存在する（ここで[X]は数密度である）。 Aを分子の断面積，?XをXの吸収断面積（単位はcm2 molecule–1で，Xの吸収特性を示す）とおくと，成分Xの１つの分子に入射した１個の光子が吸収される確率は?X/Aとなる。入射する光子のうち，層にあるX分子によって吸収されるものの割合は，?X [X]dzである。光化学作用フラックス(actinic flux)Iを，全ての方向から来た光子が単位時間あたりに単位面積の水平面を通過する数（単位はphotons cm–2 s–1）と定義し，量子収率qXを，光子１個の吸収が分子Xの光解離をもたらす確率（molecules photon–1）と定義する。単位時間に層の中で光解離される分子Xの数は，qX?X [X]I dzである．光解離速度定数を得るためには，層にある分子Xの数[X]dzで割ればよく，次のようになる： （9.12） （9.13）?は光化学作用フラックス分布関数であり，第７章のフラックス分布関数??と同じように定義される。I?と??の違いは，前者が単位面積の水平面に全ての方向から入射する光子の数を示すのに対して，後者は水平面に鉛直方向から流れ込む光子のエネルギーを示すということにある。大気中の太陽からの光子は，空気分子，エアロソル，雲などによる散乱のために，あらゆる方向から入ってくる。I?と??の関係は光子の角度分布に依存して変化する。 9.4　ラジカルによる連鎖反応 　大気中の気体の濃度は，実験室や工業プロセスで扱われる気体の濃度よりもかなり低い。その結果，分子間の衝突頻度は比較的少ない。いくつかの例外はあるが，少なくとも一つのラジカル種が含まれていなければ、大気中での分子間の反応は十分な速さで進行しない。 　ラジカルは，最外殻に（原子価）に不対電子を持つ化学種と定義される。ラジカルは，この不対電子のために，非ラジカル種（電子が全て対になっている）に比べて高い自由エネルギーを持っており，はるかに反応性が高い。ある化学種がラジカルであるか否かは，その電子数から分かる。つまり，電子が奇数個であればラジカルで，偶数個の場合はラジカルではない。例えば，NOはラジカルである(7 + 8 = 15個の電子)が，HNO3はラジカルではない(1 + 7 + (3 ?)8 = 32個の電子)。この規則に関する重要な例外は酸素原子である。酸素原子は８個の電子を持っているが，その「三重項」O(3P)基底状態は二つの不対電子殻をもっている(2s2