第5章不完全競争市場-西南学院大学.docVIP

第Ⅱ部　不完全競争市場と競争政策 第Ⅰ部では，完全競争市場での価格システムの仕組みを考察してきた．第Ⅱ部では，これまで学んだ基礎概念を使って，実際の市場で見られる不完全競争市場の理論と政策を分析する．まず，企業間の多様な競争形態をもとに4つの市場構造に分類し，それぞれの市場の仕組みや構造の特徴を分析する．5章では，独占と独占的競争を取り上げ，続く6章では，寡占市場を検討する．また，ゲームの理論を学ぶ．7章では，企業の戦略行動を考察する．8章は，競争促進政策や産業政策などの公共政策を分析し，我々の現実の市場経済の改善策を考察する． 第5章　不完全競争市場 実際の市場は完全競争ではなく，不完全競争であるのが通常である．不完全競争市場は企業の競争形態から4つの市場構造に分類される．この章では，不完全競争市場の基本的特徴を分析する．まず，市場構造の定義?分類をする．そこで，市場支配力，集中度，参入障壁，製品の差別化などの重要な概念を学ぶ．さらに，独占と独占的競争を取り上げ，限界収入，双方独占，独占的競争，独占の弊害などの重要な概念を検討していく． 　 5-1　市場構造 1「産業組織論」 不完全競争は実際の市場の現実である．1部で学んだ知識を現実の市場の現象に応用し，発展させていく必要がある． この実際の市場を分析する方法に「産業組織論Industrial Organization」がある．市場構造S，企業行動C，市場成果Pの3つの視点から現実の市場を分析するミクロ経済学の応用分野である． (1)「市場構造Structure」は企業間の関係や費用構造をもとに市場を分類し，その特徴を分析する． (2)「企業の行動Conduct」は価格，製品差別化，広告，研究開発などの活動を分析する． (3)「市場成果Performance」は効率，公平，成長などの基準をもとに市場を評価し，改善策を考察する． ?これをSCPパラダイムという．すなわち,市場構造Sによって企業の行動Cが決まり,企業の行動Cによって市場成果Pが決まる． この考え方に従い，第Ⅱ部では，5章?6章で市場構造の分析をし，７章で企業の行動，8章で市場成果とその政策課題を検討する． 2　市場構造の分類：市場の構造を競争の機能により分類する． (1) 市場構造の規定要因（図5-1）：経営学者のPorterによると，企業間の関係①～④の要因が市場構造を規定する． 図5-1の垂直（たて）関係，水平（横）の関係に注目する．これより，市場構造は下の表5-1のように分類される． 図5-1市場構造の規定要因（Porter） 　　　　 (2) 市場構造の分類：完全競争?独占?寡占?独占的競争の４つ． 企業数?製品の差別化?参入障壁により分類（表5-1） 表5-1　市場構造の分類 企業間の関係 市場構造の規定要因 完全競争 独占 寡占 独占的競争 ①売手の間 売手の数 極めて大 1（売手独占） 少 多 ②買手の間 買手の数 極めて大 1（買手独占） ― ― ③売手と買手の間 製品差別化 ― ― 少～多 多い ④既存企業と潜在的な参入企業の間 参入障壁 なし 極めて大 大 小 (3) これらの市場構造の例： ?完全競争（それに近い例：株式市場，外国為替市場，野菜など生鮮食料） ?独占（電力,水道,新幹線, たばこ）， ?寡占（製品差別化大：自動車,家庭電器, カメラ,医薬品,ビール,新聞----最終財が多い 製品差別化少：鉄鋼,セメント, アルミ,化学製品,石油,パルプ----中間財が多い） ?独占的競争（小売業,レストラン,ホテル,タバコ屋,土木建設業） (4) 参入障壁：参入障壁を設ければ新規参入を制限して競争を有利に導くことができる． 参入障壁の要因：①法的な参入規制（許可制，免許制，登録制），②規模の経済（大規模設備），③絶対的なコスト優位（技術?経験?立地），④差別的優位性（ブランド，スイッチングコスト），⑤資本調達 3　企業の戦略行動（これは第7章の課題） 市場のマーケッティング戦略；4つのP（Price,Product,Promotion ,Place） に注目する． ①価格Price (差別価格)，②製品Product (製品の差別化)，③広告?販売政策Promotion，④地域?流通戦略Place 4　市場構造の測定基準 (1)市場と産業：「市場」は同種の商品(財?サービス)に関する売り手と買い手の集合のこと． 「産業は」同種の商品を供給する企業のグループ(業界;industry)．あるいは，産業は「特定の産出物を生産するすべての企業からなるもの」 産業の範囲は「密接な代替関係のある商品群」：交叉弾力性（需要?供給）で測定する 需要の交叉弾力性＝商品1の需要量の変