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2010 年 8 月 6 日発行 中国で強まる工場労働者の賃上げ圧力 ～一過性ではない賃上げ圧力、日系企業に 求められるより自立した経営～ 本誌に関する問合せ先 みずほ総合研究所株式会社 調査本部 アジア調査部中国室 上席主任研究員 鈴木貴元 ℡ 86-21-3855-8888内線3140 * 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。 本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保 証するものではありません。また、本資料に記載された内容は、予告なしに変更されることもあります ――要旨―― 1. 2010 年に入って、中国では、工場労働者の賃上げ圧力が強まっている。ストライキ が目立つようになった 5 月以降、最低賃金の引き上げでは 20％以上が常態化、スト ライキによる賃上げでは 30％を超える獲得事例なども見られるようになっている。 2. 賃上げ圧力の背景には、①景気要因、②人口?労働供給要因、③賃金構造要因の３つ がある。まず、景気要因は、昨年は国際金融危機を背景とする生産調整の影響で賃上 げが抑制されたのに対し、今年は景気回復を受けて、労働需給が逼迫してきており、 昨年分を含めた大幅な賃上げ圧力が出ていることである。次に、人口?労働供給要因 は、少子?高齢化により、工場労働者の中心となる若者層が本格的に減少を始めたこ と、4 兆元の経済対策を契機に沿海部へ移動する農民工が減少したこと、ここ 10 年 の教育改革でホワイトカラー志向の高学歴者が増加したことである。最後に、賃金構 造要因は、ホワイトカラー?企業優位の分配が続くなか、格差が引き起こす社会問題 に対応する必要性が高まっていること、また、経済成長維持のために輸出主導型から 消費主導型に経済構造を転換させる必要性が高まっていることから、ブルーカラーの 賃上げによる調整が緊急のものとなってきたことである。 3. 中国政府は、社会保障や減税?補助金など財政?税制による所得再配分よりも、賃上 げ誘導などによる直接的な所得増加を重視してきている。来年にかけては、所得分配 のあり方をより具体的に示す「収入分配制度改革方案」や、集団労使交渉を全面導入 するための「賃金条例」、5 年間を目標とする「国民収入倍増計画」の制定などによ って、賃上げ誘導を強化する模様である。2015 年までの間、平均賃金の伸びを名目 ＧＤＰ成長率以上にする、2015年の最低賃金の水準を平均賃金の 4、5割まで引き上 げるなど、今後の労働政策の方向性に基づいて試算すると、平均賃金（2008 年実績 29,229元）は、6～7万元（年 12～15％増）、最低賃金（2010年見通し約 11,000元） は 2.8～3.7万元（年 21～27％増）となる。目論見どおり賃上げが行われれば、中国 の低賃金神話はこの 5年で完全に終わりを告げよう。 4. 中国の賃上げ加速は、今や避けられない情勢になりつつある。企業としては、賃金上 昇分を価格に転嫁するか、それとも機械化などにより生産性を高めて吸収するか、さ らには、工場を移転するか、より適切な組み合わせを判断する必要性が高まっている。 こうしたなか、日系企業には、2つの取り組みが求められる。一つは、経営組織の一 段の現地化により、ストライキやジョブホッピングのリスクなどを抑え、賃金上昇圧 力を企業内需から緩和することである。そしてもう一つは、現地法人の一段の自立化 により、選択できる戦略を増やし、また、意思決定を迅速化し、賃金上昇圧力への対 応をより柔軟にすることである。低賃金のメリットがなくなるなかで、適切かつ迅速