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細胞を操る化合物ツール 1 〇上杉 志成 1 京大?物質細胞統合/化研 uesugi@scl.kyoto-u.ac.jp 【序】 人間の歴史の中で、生理活性小分子化合物は、さまざまな形で用いられてきた。その利用 法を大きく分ければ、医薬品、農薬、基礎生物学研究のツールが挙げられる。私たちの研究 室が焦点を当てているのは、細胞を操るツールとしての化合物。人間の細胞の基本的性質を 変える合成化合物を見つけ出し、それらを道具として生命現象を操作?解析する。細胞の仕 組みは非常に複雑だが、有機化合物をツールとして用いることで、新たな切り口で細胞を研 究することができると期待される。 【結果】 今回の講演では、２つの化合物ツール──遺伝子の発現を操る「レンチノロール」と細胞 接着を操る「アドへサミン」──を紹介し、最新の研究成果を議論する。いずれも細胞研究 の独特なツールとなる可能性がある。 ● レンチノロール 遺伝子の発現を自在に操る小分子化合物を見つけ出すことは、化 学の生物に対する挑戦の一つだ。転写因子の一つであるESXの働きを制御する化合 物を合成化合物ライブラリーから探索し、アダマノロールと名づけた 1,2 。さらに この化合物を最適化してレンチノロールを合成した3。このレンチ型をした化合物 は、転写因子のタンパク質－タンパク質相互作用を阻害して遺伝子の転写を直接制 御する初めての有機化合物となった。 ● 小分子転写因子 レンチノロールは 転写因子の転写活性化部位を模倣し ている。DNA 結合ポリアミド分子に 共有結合させることで小分子転写因 子の合成に成功した4,5。有機化合物で 転写因子ができるということが証明 DNA-binding moduleDNA-binding module (Hairpin polyamide specific(Hairpin polyamide specific for 5’-TGACCAT)for 5’-TGACCAT) された。転写因子の分子量は、通常50 ActivationActivation mm ～100 KDa である。大きなタンパク質 (Wrenchnolo(Wrenchnololl である転写因子を小分子化合物で模 倣することができた。 ●アドへサミン 化合物ライブラリーのスクリーニングによって、ヒト培養細胞の 接着と増殖を促進する小分子化合物を発見した6。アドヘサミンと名付けたこの化 合物は、細胞表面のヘパラン硫酸に結合して、細胞接着や増殖を亢進している。ア ドヘサミンを培地に添加するだけで、ヒト培 養細胞をプラスチックやガラスなどに生理 的な状態で接着させることができる。また、 生体内でも細胞接着を促進する。アドヘサミ ンとその誘導体は小分子でありながら、生体 図2. Adhesamine 内タンパク質であるフィブロネクチン(440 KDa)のような働きをする。細胞治療や細胞生物学の試薬として有用な物質となる と期待されている。 【考察】 今回の講演では、１つの提案をします。医薬品、農薬、基礎生物学ツール以外の生理活性 化合物の利用法があるかもしれない。その１つは細胞治療やバイオ医薬を助ける加速装置と しての小分子化合物だろう。これらの化合物自身は医薬品そのものではない。あくまでツー ル。しかし、細胞の基本的な性質を操る化合物ツールの中には、細胞