心理学的手法を用いた性的虐待被害児童の識別.pdfVIP

〔東京家政大学研究紀要　第46集（1），2006，pp．229～236〕 心理学的手法を用いた性的虐待被害児童の識別 越智　啓太＊，福田　由紀＊＊ 　（平成17年10月6日受理） 　　　　　　　　Psychological　Methods OcHI，　Keita　and　FuKuDA，　Yuki 　　（Received　on　October　6，2005） キーワード：児童虐待，性的虐待，投影法 Key　words：child　abuse；sexual　abuse；projective　technique 所，弁護士などに対する）が存在するからである．この 1　性被害の事実認定の問題 背景には，複雑な家族関係や（告発者の）精神疾患など 　子どもに対する性的虐待に対して行政的，あるいは司 さまざまな原因がある．そのたあに，事実認定は，身体 法的な介入を行おうとする場合，問題となってくるもの 的虐待で見られることが多い「家族は虐待がないといっ のひとつに事実認定がある．事実認定とは，実際に性的 ているが実際にはある」ケースだけでなく，その逆の， な虐待が行われているか否かを明らかにすることである． 「家族は虐待があるといっているが実際にはない」ケー 事実認定は，暴力などの身体的虐待においても，思いの スも識別をしなければならない．第5に，捜査過程自体 ほか困難であるのだが，性的な虐待の場合には，それ以 が被害者やその家族にとってトラウマになってしまうこ 上に困難である．その理由は，次のようなものである． とがあるからである．実際，性的犯罪が行われて公判ま 　まず第1に，性的な問題は加害者のみならず，被害者 でたどりっき，有罪が得られるまで，被害者の子どもは， やその家族にとっても外部に知られたくない問題である おそらく，十回以上の尋問（質問）を受ける．その結果， たあ，被害者や家族の証言も含あて，積極的な証言が得 何度も不快な事件のことを想起しなければならず，また られないからである．第2に，性的虐待は物的な証拠が それ以上に，その過程で叱られたり，注意されたりする 残りにくいからである．性的虐待では，被害が性交にま ことになる．このような，プロセスは多くの場合，実際 で及ぶことはそれほど多くなく，また，たとえ，性交が の犯罪以上のトラウマを被害者に与えることになってし 行われたとしても性器等の外傷などの身体的所見から虐 まう． 待の事実認定を立証することは困難である（Heger， 　このような，事実認定の困難さは，子供に対する保護 Emans，＆Muram，2000）．第3に，これらの事件では や起訴などの介入を困難にする．しかしながら，性的虐 被害者が子どもや幼児である場合が多いことから，特に 待が子どもに及ぼす影響は決して小さなものではない． 司法手続き上，その証言の信頼性が問題視される場合が 　そこで，子供が性的虐待の被害に遭っているか否かを 多いからである．そのたあ，例えば，加害者の逮捕，公 識別するたあの手法を開発することが必要となってくる． 判の維持に耐えるだけの証拠を得ることが困難であり， この識別において，心理学が貢献できる部分は，少なく 行政や司法の介入は慎重になりがちである．第4に，実 ない．例えば，何らかの心理テストで，子供の性的虐待 際には一定数の「実際には性的な虐待を受け