麻酔法の種類 - 真興交易（株）医書出版部.PDFVIP

３ 麻酔法の種類 Anesthetic Methods 要　　点 ●麻酔に求められるエンドポイントとして，意識消失，鎮痛，筋弛緩，有害反射の抑制など がある． ●１剤ですべてのエンドポイントを満たすことは無理なので，数種類の麻酔薬を併用し合う ことで欠点を補う麻酔法（バランス麻酔）が今日の主流である． ●速やかな麻酔からの回復，医療費の削減という事項も麻酔管理上重要である． 　麻酔法は，意識を消失させる「全身麻酔法」と，脳以外の体の一部を麻酔する「局所麻酔 法」の２種類に大別される（表１）．全身麻酔に用いる催眠薬や鎮痛薬は経口（内服），筋肉 注射，直腸投与などでも使われてきた．しかし，それらの方法では作用の発現が遅い上に 効果が不確実である．手術による強い痛みを確実に抑えるには，全身麻酔では静脈麻酔法 表１　麻酔法の種類 主な麻酔手技　　　　　　　 全身麻酔法 吸入麻酔 ：開放式（オープンドロップ法），非再呼吸式， 　 　半閉鎖式，完全閉鎖式 静脈麻酔 ：静脈麻酔薬単独 　 　ニューロレプト麻酔 　 　大量オピオイド麻酔 筋肉内注射 ：ケタミン麻酔 直腸麻酔 局所麻酔法 表面麻酔 ：粘膜に噴霧（塗布） 浸潤麻酔 ：皮内・皮下注射 脊髄くも膜下麻酔（サドルブロックを含む）：下半身の手術に用いる 硬膜外麻酔 （仙骨麻酔を含む）：頸部以下の麻酔に用いる 伝達麻酔 ：腕神経叢ブロックは上肢の手術に繁用される 経静脈局所麻酔：主に前腕の手術に用いられる 29 新 麻酔科ガイドブック （改訂第2版） と吸入麻酔法が，局所麻酔では脊髄くも膜下麻酔（脊麻），硬膜外麻酔，伝達麻酔などが 用いられる． １．全身麻酔法   ⑴　吸入麻酔法 （⇔32頁） 　吸気に麻酔ガスを加えて肺から吸収させる．ガーゼで作ったマスクにエーテルを滴下し， 気化したガスを吸入させるオープンドロップ法は簡便である．しかし，麻酔深度が不安定な 上，呼吸抑制が強くなった場合，呼吸を補助できない欠点がある．現在は麻酔器と循環式 麻酔回路を用い，吸入麻酔薬と酸素の混合気体を吸入させる方式がとられている．短時間の 手術ではマスクで吸入麻酔薬を投与することもあるが，大半は気管チューブを留置（気管 挿管）して麻酔薬を肺へ投与する（⇔277頁）．麻酔回路のシステムにより，完全閉鎖式， 半閉鎖式，非再呼吸式などに分類されるが，現在は半閉鎖式が大部分である．吸入麻酔法は 静脈麻酔法よりも導入は遅いが，投与を中止すると速やかに肺（呼気）から麻酔薬が排泄 されるため，麻酔深度の調節性は静脈麻酔法よりも優れている． ⑵　静脈麻酔法 （⇔49頁） 　静脈より麻酔薬を注入する麻酔法は簡便で導入がきわめて速い．反面，静脈麻酔薬 の代謝・排泄は吸入麻酔薬よりも遅く，麻酔深度の調節性が悪い．局所麻酔法の補助，吸入 麻酔法の導入などにも併用される．ブチロフェノン系鎮静薬（ドロペリドール）にフェンタ ニルを併用するニューロレプト鎮痛（neuroleptanalgesia：NLA）は長時間麻酔にも用いら れる．NOや静脈麻酔薬との併用で眠らせる場合はneuroleptanesthesia（NLA）という．2 NLAの変法である大量モルヒ