看護行為の体験と臨床の知（類型化）.PDFVIP

看護行為の体験と臨床の知（類型化） ―シュッツのレリヴァンス概念を用いた看護師が語る「看護 行為の体験談」の分析 第2 報― 山中 恵利子 要 旨 看護師が過去に行なった自分にとって忘れられない看護行為の体験談を,シュッツのレリヴァン ス概念を用いて分析し,新たな知（類型化）を見出すことが本論文の目的である．K 看護師が行な った看護行為は患者の家族より非難された．K 看護師はその原因を「家族の語り」を自分の主題 として取り組まなかった自分の態度だったと振り返る．そして『患者・家族から私の看護行為は 非難された場合（理由動機）患者・家族との関係を修復するためには（目的動機）,私にとっては つらい「患者・家族の体験談」を私の主題として取り組むことが重要である』という類型化を得 ることが出来た． キーワード：看護行為の体験談, レリヴァンス概念,類型化 １．はじめに 定的経験は受容的能動性の領域であり,述定的 看護師が,患者に対して良かれと思っておこ 思考の萌芽である. 筆者の理解として,前述語 なった看護行為が患者・家族に対して結果的に 的領域とは,なんらかの言葉を発する以前の意 は好ましくない看護行為となる場合がある．こ 味発生の領域と考える.）シュッツは, 前述語的 のような事態はなるべく避けたいことではある な思考である類型化を, 日常生活を支配すると が,残念ながら発生した場合,看護師はこの看護 ころのプラグマティックな動機に結びつけ明ら 行為を振り返り,そこから新たな知を獲得する かにする方法を見出した．この点において,後述 ことが望まれる．新たな知とは, 自分が行なった するシュッツのレリヴァンス概念は,個々の体 失敗例からある悟りや道理を引き出すこと（今 験に隠されている前述語的な類型化を明らかに 後「私はそれを再び為ることができるI can do it するうえで切り離せない概念である．このよう again 」の理念化､「等々and so on」という事柄 な個々の体験から構成される類型化が明らかに の理念化とシュッツは名づける 1））である．私 なれば,それは個人の知識を超え我々共有の知 たちは失敗した体験からその原因を探り焦点と 識へと変容することが出来る． なる問題を浮かび上がらせ, この主題を解決す 最近,筆者は2 人の看護師による「看護行為の るための方法や手段を解釈してある類型に構成 体験談」3 事例をシュッツのレリヴァンス概念 し習得するのである．新たな知とはこの類型化 を用いて分析してその類型化を見出した 3)．本 のことである．しかし個々の体験から構成され 論文はこの研究の継続として,患者の家族から る類型化は通常,意識下に現れず,現象学の言葉 看護行為を非難された 1 事例についての報告で 2) を使うならば前述語的な思考に属している ． あり,研究協力者である看護師が過去に行なっ （前述語的は,前述定的とも言われる. フッサ た印象深い看護行為を振り返った語りをシュッ ールは,個物に関する判断としての経験判断は ツのレリヴァンス概念を用いて類型化をおこな すべての判断の基盤に位置づけた.経験判断は った．当事者である看護師と