唐末杭州都市形成.pdfVIP

都市文化研究 　Studies in Urban Cultures Vol.7, pp.20-33，2006 ◇ 論　文 ◇ 唐末杭州における都市勢力の形成と地域編成 山　崎　覚　士 要　旨 　唐後 半期以降の地域分節構造は，地域と都市に何をもたらせたのか。本稿 では特 に，唐末における浙西 ・浙東地域の都市に見 られた武装勢 力の特質 について考察 す る。長江デルタの南端に位置する杭州では，黄巣の乱 という社会不安を受けて武装 勢 力の結 集が見 られた。それは当時発達していた運河 と支流上や，それに連繋する 塩業務機 関の置かれた都市に見 られ，武装勢 力は相互に連合を図り，婚姻関係 を 構築 している。一方で浙東地域では，山間部において武装勢 力の結 成が見 られるも のの，山間立寨 という個別分散的な配 置にとどまり，むしろ県城 などでは流賊 の流 入が見 られた。杭州に形成された武装勢 力はその強固な連合を基礎に拡大し，流 入 流賊 の排除 を通して浙東地域を併呑することとなり，やがては杭州を中心 として浙 西 ・浙東地域が再編 成されることとなったのである。 キーワード ：運河，銭塘江，武装勢力，杭州八都，山間立寨 （2005年10 月5 日論文受理，2005年12 月2 日採録決定　『都市文化研究 』編 集委 員会） はじめに 対応の結 果，既 に見たように広大な唐朝の支配 領域の中核部分に，長安と洛陽を頂 点とし，河 安史の乱 を分水嶺 として分期 される唐代後 南をその武装装置の 人的供給 基盤とし，江淮を 半期以降 になると，唐朝の統 治空間に 「辺境 財政的基盤とする緊密 な相互依存的な収奪関係 ――王都――長江下流連結 」の大きな地域分節が が形成された。このような社会関係 を其の基礎 成立したとされる。この地域分節について妹尾 に於いて支えていたのは，黄河，済水，淮河長 達彦氏は，「「辺境―王都―長江下流連結 」とは， 江を通じる公的，私的な商品流通であった」と 西北部軍事前線 が，王都を媒介に長江下流域 し，当時の大運河を軸とする公私の経 済活動に （江南 ・江淮）に連結 する政治 ・経 済組織 のこ よって連結 された首都―江淮地域と，その間に とであり，八世紀 後 半以降の王朝の主要財源地 人的供給 地 としての河南地域を介する地域分節 2) としての長江下流域の登場が，この政治 ・経 済 を論じた 。 組織 の前提」であり，「唐朝の長安と洛陽の両 以上の視点を踏まえ山根直生氏は近年，地域 都の都市構造や，既存の行財政機 構自体が，こ 分節とその連節の様態 を 「地理的臓器群 （地理 の 「辺境―王都―長江下流連結 」の影 響をうけ 的器官群）」と独 自の言葉で呼ぶが，意 味する 1) ところは地域の独 自性 とその有機 的連結 であ て変化していった」 と述べる。 また佐竹 靖彦氏は視点を首都と河南，江淮に り，以上のような国家の地理的様態 に対する注