人的资本理论-独立行政法人労働政策研究研修机.PDFVIP

 特集：この学問の生成と発展 　　　　　労働経済 人的資本理論 赤林　英夫 （慶應義塾大学教授） （スミス  1980：175-76）」。人的資本の考え方の起源は Ⅰ　はじめに 『国富論』のこの記述にあるとされるが，ミンサー 人的資本理論は教育や訓練の経済的意義や賃金格差 （Mincer 1958，1974），シュルツ（Schultz 1960），ベッ を説明する際に広く用いられる考え方で，労働経済学 カー（Becker 1975）等の経済学者は，スミスのアイ のみならず経済学全体に関わる基礎概念である。 デアを「人的資本」という概念で再定義し，分析上有 「一物一価の法則」は経済学の基本法則である。完 益なツールとして発展させた。その過程で，賃金や所 全市場の下での均衡では，同じ財にはすべて同じ価格 得水準と教育や訓練との関係が誰の目にも明らかにな が成立しなければならない。しかし，少なくとも近代 り，「人的資本」概念の有用性は揺るぎないものとなっ 以降の産業社会においては常に，同質の生産要素を供 た。 給する労働者間の賃金に，歴然とした格差が存在して いる。その原因を不完全市場や差別だけに求めること Ⅱ　教育の効果と収益率 には限界がある。賃金格差は，異なる地域や産業間だ 人的資本への投資が経済成長の源泉であるとすれ けではなく，同じ企業や産業の中，そして同一の人 ば，それは物的資本の利子率と同等の収益性を持って 種・性別グループの中にさえ存在するからである。 いるのであろうか。その問いに直接答えようとする試 労働者の賃金に格差があることが常態であれば，労 みが「教育の収益率」の推計である。その手順を簡単 働者の生産性の間に差があると想定するのが自然であ に示すと以下のようになる。 る。そして，生産性の差異が労働者の知識や技能の差 まず，教育の便益と費用を私的な（教育を受ける本 異に由来し，それが教育や職業訓練といった「投資」 人に帰属する）ものと社会的な（本人以外に帰属する） 行動の結果だと想定するならば，投資水準の社会的な ものに分ける。教育の私的な便益として，その人が追 効率性や所得格差縮小のための経済政策の介入の是非 加的に教育を受けることで得られる生涯所得の現在価 を議論することができる。 値の上昇分がある。社会的便益としては，意思疎通や このような議論の発達には，マクロ経済学における 道徳心の向上，社会治安の解消や民主主義の発展など 知見の蓄積も影響を及ぼしていた。一国の経済成長の が経済活動にプラスであることが想像される1） 。 要因として，資本と労働だけでなく，教育水準の向上 教育の私的費用は直接費用と間接費用に分けられ も重要であることが分かってきたからである。1950 る。前者には学費や書籍代などがあり，後者は子ども 年代から経済成長会計を分析してきたデニソンは，戦 が学校に行かずに働いていたら得られたであろう所得 後 25 年間の米国の経済成長のうち，資本と労働力の