斎藤广志.PDFVIP

地　名 推　考 記 斎　藤　廣　志 Ｉ　姓氏の多くは地名に由来していて、親と られていた関所こそ有耶無耶関で、伊耶無 子の関係にあることは申すまでもないが、姓 耶､、布耶無耶などとも称され､伊奈関の名も 氏の語源の解説書を読んでいて、甚だ不審に 伝っている〈宮城県地名考〉とも言われるが、 思うことがある。 秋田県象潟町にその名を負う小字が現存する 　例えば「関」という姓氏についてはほとん のは事実である｡) ど関所のあった場所にもとづくとのみ記述さ 　従って、関所に由米する関の姓氏があるで れている。ある著書には「関という地名は、 あろうことは疑いもあるまいにしても､｢秋田 たいてい関所のあった場所につけられてい 県市町村字名称調｣によれば、セキ関連の小 て､全国にまんべんなく関という地名があり、 字名は約320を数える。 それにもとづくたくさんの関さんが生れてい 　そのうちの40％の130以上が関の文字を用 る」と書かれているが、「たくさんの関さん」 いており、本米ならば堰と書くべき小字と思 は関所に由来するのがほとんどと考えてよい われるものがほとんどである。 であろうか。 　さらに堰地名が姓氏になるに際して、関の 　菅江真澄の「月の出羽路　平鹿郡一〇」の 文字を当てることにした可能性も薄くはある 増田枝郷　関ノロ村のくだりに「関ノロは、 まい。 凡いづこにも関所の目をいへれど、此あたり 　故に関氏の大部分は用水路の堰にもとづく にては、関てふ事はみな堰（ヰゼギ）を清濁 と考えるべきであろうし、その解説に関所を 唱へ雑（マゼ）て、関、堰（セギ）のけぢめ 取上げるだけでは、片手落ちどころか、両手 なきは、堰の文（モジ）のむつかしければ関 落ちの感が深い。 を書るにこそあらめ」と、堰の漢字の代りに 関を当てている事例を述べているのを思い起 II　r馬場」という姓についても同じことが す。 言えよう。その説明には「馬場とは馬の往来 　確かに秋田県と山形県の境界に設けられて をたすける番人の詰所や、調教場のことをい いた関所は象潟町関の小字名称有耶無耶関と い、すなわち、これが馬場の地名の由来であ して存在する｡（但し、古く歌枕にされた有耶 り、そこに住んだ人は馬場さんとよばれ、そ 無耶関はここではなくて、鳥海山の西麓にあ こへ移り住んだ人も馬場さんになった」と書 る、明治９年に礎石が発見された宕山こそが かれているけれども､崖､傾斜地もババと言い、 関の跡だと言う説もあり〈出羽国風土記〉、ま 神社の参道や広場をもババと呼ばれることも た、仙台領と最上領の境にある笹谷峠に設け 省略できないはずである。 －12－ 　県内34の馬場関連地名の大半は崩壊地形、 製し