酪农豆知识第11号.PDFVIP

ニ ッ サ ン 平成20年4 月 酪 農 ・豆 知 識 第11号 乳房炎の定義と分類 １．乳房炎の定義 乳房炎とは乳腺組織の炎症のことで、そのほとんどは細菌感染が原因です。乳腺 に炎症が起こると、乳汁の水素イオン濃度 （pH）や塩素量などが変化するほか、体 細胞数が増加します。このため判定方法には、乳汁のpH や塩素量の測定など種々 ありますが、体細胞数測定が現在は最も普及している判定方法です。 なお、乳房は四つの分房からなっていて、各分房は隔壁によってそれぞれ独立し ています。したがって、乳房炎の感染も個々の分房ごとに起こるので、「乳房炎牛」 と 「乳房炎分房」とは区別して認識する必要があります。 ２．乳房炎の分類 乳房炎は臨床型乳房炎と潜在性乳房炎（または非臨床型乳房炎）に大別できます。 臨床型乳房炎は乳房が赤く腫れて熱をおびたり痛がったり、あるいは乳汁中にブ ツが混じるなど、肉眼的な異常が認められるものです。 これに対して、潜在性乳房炎は上記のような異常が見られずに乳腺に炎症が起き ているもので、乳汁検査ではじめてそれと分かるものです。 「急性乳房炎」あるいは 「慢性乳房炎」という呼び方は、症状の経過による分類 です。 臨床型で急性の乳房炎の場合には、腫脹や発熱を示したり乳汁性状が顕著に変わ ったりするので診断は容易ですが、潜在性乳房炎の場合にはこれらが明らかではあ りません。現実には、臨床型乳房炎の発生割合は比較的少ないのに反して、潜在性 乳房炎は搾乳牛の25~50%が罹患しているといわれており、経済的な損失もこちら の方がはるかに大きいのです。 ３．乳房炎の原因菌 乳房炎の原因となる微生物は種々ありますが、古くから感染しやすいものや感染 したときの病勢の強いものを主要病原菌、それが比較的弱いものを副次病原菌と区 分する分類法が使われてきました。しかし、最近は 「伝染性病原菌」と 「環境性病 原菌」とに分類することが多くなっています。 前者は、黄色ブドウ球菌や無乳性レンサ球菌が代表的なもので、保菌場所は主と して乳房です。分房から分房へあるいは牛から牛へと伝播し、その機会は搾乳時が 圧倒的に多いのが特徴です。 後者は、大腸菌、乳房レンサ球菌、緑膿菌といった牛の周囲環境に常在する病原 菌です。したがって、周囲環境、とくにふん尿に汚染された敷料が主な感染源にな ります。乳頭がこれらの菌に汚染されるのは、搾乳と搾乳との間です。これらの菌 は搾乳時にも乳頭に留まっているので、搾乳前の衛生管理が正しく行われないと、 搾乳中に乳頭管や乳頭槽にこれらの菌が侵入する機会を与えることになります。 表 乳房炎の主な原因菌 菌 名 菌 種 伝染性病原菌 環境性病原菌 ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌＊ 表皮ブドウ球菌 （CNS） レンサ球菌 無乳性レンサ球菌＊ 環境性レンサ球菌 減乳性レンサ球菌＊ 乳房レンサ球菌 コリネバクテリュウム ボビス、ピオゲネス＊ ＊ ＊ 腸内菌属 大腸菌 、クレブシェラ マイコプラズマ ボビス プソイドモナス