植物群落と他感作用-J-STAGEJournals.PDFVIP

植 物 群 落 と他 感 作 用 沼 田 真 MakotoNUMATA 千葉大学理学部生熊学研 究室 をみ る と,Allelopathieは文字通 り種 間の他感作用にあ 1.他感作用の研究史 て,同種個体 間(種 内)の化学物質 に よる自家 中毒的作 他感作用 とはア レロパ シー(allelopathy)のことであ 用 の場合 を自感作用(Autopathie)としてわけている. る.幅の広い植物学者であ り,後に ウィーン大学総長に しか し,これはボナー(J.Bonner)が1950年の総説(3)で なったモー リッシュ(H.Molisch)が1937年に同名 の 行 なった ように,種 間(antibiotic)と種内(autotoxic) 本(1)を書いてい らい,植 物学者に よって広 く用い られ る の相互作用 とい う形 で他感作用 に広 く含めたほ うが よい に至 った.そ の表題は“ある植物の他の植物への影響, よ うに思 う.アレロ とい っても,異種 のみならず 同種 の ア レロパテ ィー” となってお り,他(ア レロ)の植物の 他個体 とすれ ば よいのであるか ら. 感ず る(パ シー)物質の作用を扱 った ものであった.モ モー リッシュの本 では,第1章 でいろいろな形 の植物 ー リッシュは東北大学で しば らく教鞭を とり,わが国の 間相互作用(寄 生,共 生,接 木 な ど),第2章で生長そ 植物学者にかな り大 きな影響を与えた.彼 の 本 に は, の他に対す る果実 の作用,第3章 で36の実験例をあげ, “園芸家 の た め の植物生理学”(1916) ,“植物解剖学” 第4章 で有害物質 の植物界 における意義,第5章 で発芽 (1920),“道具を使わない植物実験”(1931)のよ うな名 促進 ならびに抑 制物質,第6章 主な成果,第7章 むす 著がた くさんある.中で も “日本における植物生態学的 び となっている.そ の中心は2,3章 に述べ られている 研究”(1926)は,彼が 日本滞在中に行なったす ぐれた研 エチレンの作用 で,果実 の熟化を早 め,ジャガイモの芽 な 究 の所産である. どの伸長 を抑 え,イ ボタな どの落葉 を促進 し,イヌホオ ズキの葉 を上偏生長 に よって下にまげ,ソ ラマ メの根 の 1)化学物質を介 しての植物間相互作用 伸長 を抑 え,かつ肥厚,屈曲させ ることを,リンゴの果実 モー リッシュは,リ ンゴやナシの過熟の ものを未熟の か らでるエチレンに よって実験 した.タ バコの煙に よっ もの と一緒に してお くと,早 く熟 させ ることができると てニワ トコ,ヤナギなどの温液が促進 され ることは前か い う実際家の経験か ら出発 し,そ こか ら,植物体のだす ら知 られていたが,リ ンゴガスにも同様 の働 きがある. 化学物質に よって同種 または異種の植物がいかに影響を リンゴガスはまた,ナ タウ リなどの正 の屈地性を失わせ, うけるかを明 らかに し,これを他感作用 とよんだのであ スイセ ンな どの花粉の発芽や花粉管の生長を促進す ると る.これを遠隔作用 とか化学的植物相互作用 と訳 した こ い った多 くの実験例をあげてい る.しか も,こ うした作 ともあるが,彼 がギ リシャ語をもとにつ くった もともと 用が,ニ ワ トコや トチ ノキの出芽 で調べ られた よ うに, の意味の “他感作用”に よって よく内容が表現 さ