卒业论文草稿.doc

はじめに 　小牧市にある田縣神社（たがたじんじゃ）の豊年祭は男性器を模した御神体、の神輿を担いで練り歩くという点で天下の奇祭として国内だけでなく海外においてもその名が知られている。珍祭、奇祭でいえば愛知県では国府宮の裸祭りや田縣神社に程近いところにある大縣神社の豊年祭が有名だろう。その他にも奈良県の飛鳥坐神社のおんだ祭りなど、奇祭と呼ばれる祭りは日本全国に数多と存在する。 　田縣神社の豊年祭に興味を持ったきっかけは、2月から3月に行われる御田植神事と呼ばれる予祝儀礼、つまり田植えの前に一年の豊作を願う祭りに興味があり、在所近郊に注目して調査していたときだった。奇祭、珍祭を扱った文献を調べると必ずといっていいほど掲載されているのが田縣神社の豊年祭だったからである。しかしながら、知り合いには小牧市出身も少なくないが、いままでこの祭りについての話を聞いたことがない。文献では頻繁に見かける一方で話ではまるで聞かない。これは何かある、ぜひ自分の目で見てみなければいけないと思い、2007年春に豊年祭へと足を運ぶこととなった。 　男性器を祀る神社は多数あり、男性器を模したもの（デフォルメされたものや忠実に再現したもの）が用いられる祭りは新潟県佐渡島のつぶろさしや同県魚沼市のしねり弁天たたき地蔵、長野県の道祖神祭り、神奈川県のかなまら祭りなど日本全国にみられる。 　このように性器が御神体として現れるのも、人類の存続と繁栄にとって生殖、再生産が永遠のテーマであるからであろう。人としての根源的なものをシンボルとして使うことは人びとに大きなインパクトを与えることができる。 だが、こうしたインパクトがあるということだけでは今の田縣神社の豊年祭が今日のように盛況であることを説明することはできないだろう。祭りの規模が今日のように大きくなったのはなぜか、規模が拡大したことで何がかわったのかという疑問を解くべくこのテーマを選んだ次第である。　 第一章 豊年祭研究における視座と目的 　本章では祭りに関する先行研究にふれ、祭りと共同体に関する理論を概観し、本稿の視座と目的を示す。 第一節　祭りに関する先行研究と本稿の視座 祭りの分析は、デュルケームの祭儀における集合的沸騰により移行する「日常」から「非日常」への流れや、ヴァン?ジェネップの通過儀礼や “移行の儀礼”（この表現はターナーのものである）にみられる分離、周辺、そして再統合という三段階のプロセス、さらにターナーのリミナリティやコミュニタスといった概念によって行われてきた。それらに共通して見られるのは、「日常－非日常」、「俗-聖」、民俗学で言えば「ケ－ハレ」といった二項対立で説明される構図である。祭りによって引き起こされる現象とは、通常の空間から非日常空間への移行であり、社会の規範を一時停止して社会の成員（祭りにかかわる者）の社会的役割をその間変更してしまうということである。このような現象が果たす機能について、芦田はデュルケームの考え方に依拠しながらつぎのように表現している[芦田　2001]。人は日常的生活を繰り返すことで社会的な統合力を失っていき、人々は孤立、または放埓な状態になり、最終的に社会生活の危機に直面するが、それらを回避するために、「人びとは周期的に集合し、例外的な興奮状態のなかで融合?一体化し、社会生活の道徳的源泉である集合意識を再活性化して、再び健全な日常生活へと戻っていく」[芦田　2001：29]。森田も「祭りは、内外の無秩序の侵入におびえる個人にたいしてまずはたらきかけ、秩序の確信を与え、それをとおして集団の統合、維持存続をはたらきかける」[森田　1995：141]と表現は違えども同様のことを言っている。また森田は、祭りが秩序を与えるという機能に言及し、「人間は象徴を規則正しく使用する祭りを利用することによって自己のアイデンティティを確認する」[森田　1995：142]と言い換えている。 つまり、祭りとは個人、共同体のアイデンティティを創出し、社会機構を維持するための機能を持ったファクターなのである。こうしたことから、芦田は祭りを「『聖なるもの』を求心的シンボルにして（聖中心性）、日常生活とは異なる規則に従い（非日常性）、厳粛－厳格（儀礼性）と熱狂－放埒（祝祭性）のなかで、人びとが――時には対抗しつつ――　一体化し（共同性）、定期的に繰り返し営まれる（周期性）、制度的集合行動（催事性）」[芦田　2001：29]であると定義づけている。さらに松平は、この定義の中における祝祭について、「現実の世界と逆転の感性世界、孤立した人間関係とは逆の共同幻想、あるいは再生願望といったものを実現する共同の浄化作用」[松平　1990：14]を意味しているとしている。 　このように祭りは共同体を創造?維持