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『アルフレッド?ジェラール―-横濱のシャンパーニュ人』 ユゲット?ギュヤール 著?成田良幹 訳 ＜扉書＞ アルフレッド?ジェラール――これはその伝記である それは、書き留めておくに値するロマンチックな生涯であった。彼に関する記録は数多いとは言い難いが、皆無というわけではない。われわれの知りうる、この興味深い人物に関する事物が、これほど大勢のレモアの子孫たちに共鳴を与えるものとは…、市民的節度、道徳観をもちながら、逆らわない人柄と性格とは全く異なるその風貌が。 ――ウジューヌ?デュポン著「アルフレッド?ジェラール／レモアの博愛主義者」1931年より（訳注：「レモア」とはシャンパーニュ人の精神的愛称） ＜献辞＞ 1837年にランスに生まれたアルフレッド?ジェラールは、他のランス人に違わず慈しみ深く、その強運と類い稀なる生涯にも拘わらず、朴訥で、寛大な男だった。 　1860年代、その冒険心にそそられて日本に渡り、明治維新を経験した。そして、彼は、その技術的知識と夢想家魂を活かして他人のために尽くし、横濱の都市建設に一役買ったのである。 　その名声も成功もそして幸運も、その単純さの故ににべもなく潰え去ってしまう。しかし、尋常とはいいがたい日本文化への傾倒は結果的に彼の心を豊かなものとし、それは例えば、シャンパーニュのひとびとに楽しんでもらうために2,400点もの収集品をサン?レミ博物館に寄付してしまうほどであった。1915年の第一次世界大戦の空襲の最中に彼が亡くなるまで、彼はいかんなく異文化趣味を体現し、これを他人との友情の糧としていた。 　このようにして、歴史の大河の中で忘れ去られ、一見起伏に欠けたような幸運も、周囲を見回すことで目前に現実味をもって感じられるものなのだ。 　アルフレッド?ジェラールは、慎み深く聡明なシャンパーニュ人の一人であるが、結果的には、われわれシャンパーニュ人を、あらゆる文化の地平との接触と交流へと導いてくれることに、大いなる貢献を果たしてくれた、といえよう。 　ユゲット?ギュヤール女史の手になる、彼女の情熱に支えられたこの作品において、純朴で才能豊かな活力ある一人の男が、今日のわれわれ全員に誇りを抱かせてくれることを、発見し、また再発見することを、ひそかな喜びとしてこころの中だけに留めておくことなどはできない。 シャンパーニュ?アドレンネ地域議会議長 ジャン?クロード?エテンネ教授 （本文） 第一章　ベールを脱いだアルフレッド?ジェラールの実像 　アルフレッド?ジェラールは、1837年3月23日、ランスの両親の家で生まれた。この家は、後年、サン?デニの市場街１５番、更にはシャンジー通り１５番、へと地番を変えることになる、アルトア通り１３番にあった。 　すなわち、アルフレッド?ジェラールは、レモアの人間であることは明確ではあるが、ランスに生を受けた彼にとって二つの重要な意味を持つ別の村がある。そのひとつは、彼の父、ジャン?ジェラールの故郷であったブザンヌであり、もうひとつは、彼の母、マリー?テレーズ?シェルュイの故郷、ラバンヌであった。 　ブザンヌのベーター通りには至るところに彼の親戚たちが住んでいた。古城通りもまた然りである。大通りとプレソア通りに囲まれた区域の住民たちも、全て彼の親族であるジェラール姓とクーロン姓であった。そんな中で、彼の父は、プレソア通りと交差する新聞紙通りの交差点に居を構えており（隠居後は新聞紙通りに転居した）、これはノーズ橋の公園通りに通じていた。流浪の人生を送ったジェラールにとって、ブザンヌの持つ意味は大きい。日本の記憶に裏打ちされた彼の墓石がブザンヌにあることも、親族への彼の愛の偽らざる証であろう。 　ジェラールにとって大切なもうひとつの親族に視点を移してみよう。彼の母、マリー?テレーズ?シェルュイは、ジェラールが22歳の時に若くしてこの世を去っているが、ジェラールは、この母とは疎遠だった。それは、ジェラールの祖父母である、ニコラス?ジェラールとマルグリット?クーロンのもとに、彼らが亡くなる13歳の頃まで頻繁に出入りしていたからだ。 　彼の祖母はクーロン家の一員であり、17世紀まで辿れるブザンヌの名家である。アントン?クーロンはブザンヌに1693年に生まれ、その息子テリーは1721年に生を受けている。 　テリーには二人の子供があり、それがニコールとアントーニであった。このニコールが、レモアの男やもめであったジャン?ジェラールと結婚して親族に招きいれ、そして1782年に生まれた息子がニコラスであった。 　マルグリット?ジョセフィーヌ?クーロンは、1808年に、今度は従兄弟にあたるニコラスと結婚し、以下に掲げる多くの子供を設けたが、多くは年少で没した。 ジ