wbgt湿球黑球温度-kemkyoto.pdf

熱中症予防のための暑さの指標:WBGT(湿球黒球温度)の活用 安岡整形外科脳外科 安岡 正蔵 著作 「ﾋｰﾄ･ｽﾄﾛｰｸ熱射病のｶﾙﾃ」海原翔(ﾍﾟﾝﾈｰﾑ) 熱中症の予防といっても、何を指標・目安にすればよいのでしょうか？ 何か目 安となるものが存在するのでしょうか？ 経験者の勘でやるしかないのではない か、と思われることでしょう。 しかし、その目的に適う基準があるのです。それがWBGT湿球黒球温度です。 1 WBGT（湿球黒球温度 ）とは？ WBGTは暑さが体に及ぽす負担を評価するための国際的に統一された基準となっ ています。 例えば、1975年アメリカスポーツ医学 表① 労働現場の許容基準例 会は、WBGTを基準とした長距離走にお (許容） ける熱中症の発生の予防措置を提案を WBGT℃ 作業強度 しています。日本でも中井らがWBGT 極軽作業 を指標とした熱中症の予防の研究を行 32.5 RMR～1 ってきました。労働衛生分野では、日 軽作業 本産業衛生学会がWBGT を指標とした 30.5 RMR～2 労働現場での高温許容基準を発表して 中等度作業 います（表①）。 29.0 RMR～3 ではなぜこのWBGT が今日まで医療 中等度作業 関係者にもスポーツ・教育関係者にも 27.5 RMR～4 あまり知られていなかったのでしょう か。それは、つい最近までこのWBGTを 重作業 26.5 計測することはかなり面倒だったこと RMR～5 が大きな原因です。 ( 日本産業衛生学会、1982年) 普通に家庭や職場で使われている温度計は、乾球温度計といわ れるものです。この通常の乾球温度計の他に、湿度を反映した湿 球温度計と、熱の輻射を反映した黒球温度計とがあります。 従来はWBGTのデータを得ようとしますと、乾球温度計と湿球温 度計及び黒球温度計を揃えなくてはなりませんでした。持ち運び も現場に設置するのも手間がかかりました（図①）。それぞれの 温度計で、それぞれの温度を計測します。そこで得たデータを、 次のような複雑な計算式にあてはめて初めてWBGTのデータを得る ことができたのです。 (日射のある屋外の場合) ＷＢＧＴ＝0.7×湿球温度＋0.2×黒球温度＋0.1×乾球温度 このため、つい最近までは、湿球黒球温度計を実際に使用する のは、軍隊の訓練現場など、ごく限られた場合だけでした。実は もともとWBGTは、アメリカ軍が暑い中での軍事訓練で熱射病患者 を出さないことを目的として考案されたものなのです。 日本の自 衛隊でも訓練の安全性向上のために1970年頃からWBGTを使用して いました。 図① 従来のＷＢＧＴ測定装置 (中井、1991より) このように持ち運びも設置も計算も手間暇がかかるとなります